【Present】(間城佐綾様 作)




          ヴェールごとティアラをそっと外し、サイドに上げられた髪のリボンを解く。
          未だに女王の正装は着るときに女官達の手伝いがいるものの、
          正装を解くとなると着るときよりはずっと楽なので次第に自分一人でも着替えられるようになってきた。


          ―と


          ノックが数回鳴る音。それは廊下に面した自室のドアからではなく、壁に面したもう一つのドアから響く。
          その扉の向こうに居る人物は只一人。


          「あっ、どうぞ…!」


          鏡台の椅子から立ち上がると、どこか落ち着かない様子でアンジェリークは来訪者を迎えた。


          「失礼します。アンジェリーク」


          鼓動が早くなったのは、ニクスが訪ねてきたこともそうだが名を呼ばれたことも要因の一つ。
          普段執務中は立場を弁え「女王陛下」と呼ばれる。
          それは少し寂しいことだが、休憩時間やこうして二人きりになると以前のように名前で呼んでくれる。それが嬉しくて


          「ああ、すみません。まだ着替えの途中でしたか」
          「いえ、そんなことないです!あの、ニクスさんは…」
          「私はただ貴女に会いたかっただけですから。ですが、少々急いていたようですね」


          と肩をすくめる仕草に、アンジェリークはふふっと笑う。そして、少し恥じらいながら


          「あの、すぐに済ませますから待っててもらっていいですか?」
          「ええ、構いません。でも…そうですね」

          スッ、と目の前に近づいたかと思うと、ニクスの手がアンジェリークの耳たぶに触れていて

         
          「せめて、イヤリングを外す手伝いはさせて頂けませんか?」


          その申し出に戸惑うも、アンジェリークはこくんと頷いた。
          そんなどこかあどけない様子が微笑ましく、
          そして愛しく思いながらニクスは柔らかな耳元を飾るイヤリングに触れた。
          シャラ・・と涼やかな音を立てて、繊細な作りのそれが外される。
          触れるその感触がくすぐったくも心地良くて、アンジェリークは早打つ自身の胸元を押さえた。
          もう一方、小さく音が鳴ると一対のイヤリングはニクスの手に移る。


          「ありがとうございます」
          「いいえ、このくらいの事ならいくらでも」


          もう耳元を飾るそれは両方とも外したのに、ニクスの手はまだ耳たぶに触れたまま。
          不思議に思って見上げるアンジェリークにどこか楽しそうに微笑み、ニクスはそのまま顔を寄せ囁く。


          「いずれ、私からもイヤリングをお贈りしたいですね」


          女王陛下の為ではなく、恋人専用のそれを。


          「この聖地にも人材が集まってきました。
           中には商人や宝石職人の方々もいるようですし、その方々が作られた中から私が選んでも良いかと」


          それとも特注で作らせようかと。そんなニクスの言葉に嬉しくも面映ゆく思う。


          「そ、そんな…ニクスさんからはこれまで色んな物をいただいたのに!」


          アルカディアにいた頃も細かな装飾のされた懐中時計や女王の物語の絵本。ドレスも贈られたこともある。
          そしてまだこの部屋には新しい―彼の部屋と自分の部屋を繋ぐ壁際の扉も彼が作らせたものだ。
          そう、物だけではない。ニクスにはいつも、自分が知らず必要とするようなそんな心の籠もった何かを贈られている。


          「ニクスさんにはいつも貰ってばかりだから、私はどうしたらいいだろうかって思うんです」
          「ああ、すみません。貴女を困らせるための行為ではないのです。それに…アンジェ」


          くい、と細い顎に指をかけ無意識に俯いていたアンジェリークの顔を上げさせる。


          「私もいつも貴女に頂いているのですよ」
          「え?でも私ニクスさんへの贈り物は…」


          心当たりが無くて申し訳なさが込み上げてくるがそれも次の行為で瞬時に消える。
          とても自然で、それでいて優しい所作で口付けられて、アンジェリークの白い両頬が朱に染まる。


          「こうして貴女の唇を。眼差しを。そして私だけにしか見せないその万華鏡のように変わる表情を」


          いつも、頂いているのですよ、と。





          しばし二人は寄り添っていたが、アンジェリークの方から顔を上げると。


          「でも、やっぱり私からも何かニクスさんにお返ししたいです。まだ、何にするかは決めてませんけど…」
          「では、それはこれからゆっくり考えることにしませんか?
           こうして共に過ごす時間はこの一時だけではないのですから」


          ね、と穏やかに告げられるその声音はアルカディアにいた頃と少しも変わらない。
          だからアンジェリークも思う。


          「ニクスさん。私もニクスさんと同じように形だけじゃない贈り物、たくさんいただいてます。ですから…」



          これからたくさんのお返し、させて下さいね。



          はにかんで告げられた言葉にニクスは虚をつかれたように目を瞬くも、直ぐに喜びの色を表情に浮かべた。
          そしてその後、互いに考えることは同じ想い。



          ―さあ、何を贈りましょうか?




          −fin−
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          1700番目にお越し下さった春野よもぎ様のリクエスト、
          ”ニクアンSS『これからも』のその後で扉を付けてこっそりあっている話”とのことでしたが…
          ちょ、ちょっと微妙にずれてしまいました(汗)
          単にアンジェの耳元に触れるもしくはイヤリングを外すニクスが書いてみたかったのかも;

          こういう内容になってしまいたが、春野様。よろしければ受け取って下さいませ…!





          本当に素敵なお話ありがとうございました…!(≧▽≦)
          それなのになかなかお礼の返事をする事が出来ず申し訳ありません!!(>_<)
          でもでも間城さんの話は大好きなのでこれからも頑張って下さい!
          私もちょこちょこ遊びに行かせて頂きますねvv(〃▽〃)


          間城様のサイトvv ⇒

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