短編

□輝く世界
2ページ/6ページ


 もうあれから10年はたっただろう。
 貴行と過ごしたかった青春はすぎて、気がつけば社会で働くサラリーマンだ。
 別に僕はモテなかったわけじゃない。誘ってくる人間も普通の人よりは多いだろうと思えるくらいには、僕はモテていた。
 帰ってこない貴行に苛立ち、何度か付き合った人間も男女問わず居た。ずっと貴行に操をたててきたわけではないが、おれはどうしても、やっぱり心のどこかで貴行だけを思っていた。そう、それが僕にとって当たり前で、ごく自然な事だったんだと思う。

 僕の所にはもう戻ってこないと思う。
 僕たちの恋は10年前で終わってしまっていたのかもしれない。
 貴行もまさか僕が未だに待っているなんて思ってもいないかもしれない。
 きっと、僕が最後に悪あがきをした罰なんだろうな、となんとなく思う。今ならタイヤをパンクさせるなんて意味のない事しないが、あの時は恋に夢中だったのだ。
 一番恋に夢中になっている時期に、その恋を奪われるとなったら、そりゃ悪あがきでもしたくなるだろう。


 空を行く飛行機が見えなくなると、俺は持っていた缶コーヒーを飲み干して、ゴミ箱に放り込んだ。


 ある夜、僕は仕事が終わってから、どうしても真っ直ぐ家に帰る気分じゃなかった。
 ごくたまに訪れる、バーに入るとカウンター席に目をやった。
 このバーではカウンター席が10あり、その半分の手前から5席の間は、1人でゆっくり飲みたい人のための席となっており、その5席の中に座ると、誰も声をかけてこないため、安心してゆっくり飲めるのだ。
 生憎1席目には人が座っていたため、僕は間を空ける為に5席目に座った。

 マスターにレッドアイを頼んだ。
 テーブル席の方はなにやら盛り上がっている様子だが、僕はそんなに気にせずに飲んでいた。
 ぼんやりと、貴行と別れてからの10年をふりかえる、本当に色々なことがあった。
 貴行が僕の視界から消えた日から、僕の目はおかしくなったみたいに、世界の色を変えた。
 貴行を失うと、こんなにも世界は違うものかと驚くほどに、貴行が居た前と後じゃ見る景色は確実に色を失った。
 世界は何一つ変わらず、そこから貴行が居なくなっただけなのに。
 未だに僕は輝きを失った世界ですごしているが、最初の方は耐えがたかった世界も、10年もたてばなれてくる。
 ずっと待ってるなんて、言うんじゃなかったと今は後悔している。貴行には幸せになってほしかった。ステキなパートナーを見つけるのに、僕の言葉は足かせになっているのではないだろうかと、心配になる。
 貴行はとても優しい性格なので、きっと僕の最後の言葉を覚えていてくれていると思う。だが、貴行もまさか10年たった今も僕が待っていると思うかどうかは微妙だ。
 こんなに長い間、中学生の時の恋人を未だにまっているなんて、僕自身が一番ビックリしているのだから。
 もしかすると、若かったゆえに、その思い出を美化しすぎるあまりに、忘れられないのかと、色々と自分を分析してみた事もあるが、僕にはバカみたいに純粋に貴行を思う気持ちしかないことがよく分かっただけで、忘れるきっかけにはなりえなかった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ