短編
□恋するブラザー*中編*
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翌日から兄はどう言う訳か、自分でちゃんと起きれるようになっていた。
昨夜は中々眠れず、いつも兄を起こす時間に起きれなかった。気が付けば自分も遅刻してしまいそうな時間で、慌ててリビングに下りると、慶志は自分でちゃんと起きてきて朝練に行ったと母から教えられた。
それから兄は自分で毎日起きているみたいで、弟の隆志が毎朝起こしに行く必要は無くなった。
朝起きると兄はもうすでに家を出てるし、夜も遅く帰ってくる日々が続いた。
兄と弟との交流は減り、土日も家からあまり出ない弟とは違い、兄は部活や遊びやで外に出かけて居ない。
それで良かった。
あまり兄の顔を見たくはない。
毎日充実していて楽しいといった事を隠さない顔を見ているのが今は辛かった。
兄が幸せなのは弟として嬉しい。
だけど、兄が幸せそうに笑うのは、有川先輩と付き合う事が出来たからであって、有川先輩のに密かに恋をしていた隆志は手放しで喜べない。
あの優しい笑顔を兄に向けているのかと思うと、悲しくなる。
こうなる前からどうする事も出来ない恋だと思ってた。隆志自信が内気で、想いを告げれるタイプではないと、自分自身で分かっていたし、それ以前に同性相手に想いを告げるなどとは内気な性格でなくとも難しいと思い込んでいたからだ。
それゆえに隆志は恋と気付いた瞬間からその恋を諦めていた。見てるだけでいい。どうする事もできなくても、時々話をするだけで幸せになれた。
どれだけ好きでも、有川先輩が兄と二人で歩いている所を見ても、嫉妬なんてしたりしない。
ただ、悲しくなるだけ。
切なくなるだけ。
諦めきってしまっているだけに、嫉妬を知らない隆志はまだ幸せなのかもしれない。
有川先輩の姿を見ることもなく、兄ともすれ違いの生活を続けていたある日の昼休み、隆志は学校のある人気のない裏庭で一人お弁当を食べていた。
いつもの場所でいつものように玉子焼きから手をつけようと、お箸を取ったときだった。
「喜多輝(きたき)隆志くん?」
誰かに名前を呼ばれて振り向くと、すぐ後ろに男性が立っていた。
ビックリしてお箸を落としてしまった。
「あ……」
「うわ〜〜ごめん俺のせいだね! ちょっとまってて食堂で割り箸もらってくっから」
隆志の名前を呼んだ男はそう言うと走って食堂の方へ行ってしまった。