短編
□恋するブラザー*前編*
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「隆志なにやってんだ。早く席に着きなさい。母さんの飯が冷めるだろ」
「は〜い」
パジャマのまま席に着いた隆志は、フォークをウインナーに突き刺した。
またドタドタと階段を下りる足音が聞こえてきた。
「母さんっ! ごめん今日朝飯いらない! いってきまーす」
「あー慶志! お弁当忘れてるわよ」
母親が弁当を持って慌てて慶志を追いかけていく。
ご飯を食べ終わった隆志はシャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。
隆志は高1で慶志は高2の1つ歳の離れた兄弟で、同じ高校に通っている。
なのに慶志の方が家を出るのが早いのは、慶志が部活をやっていて、その朝練があるからだ。
隆志はいつも慶志に付き合って、朝早く起きなければいけない。隆志が弟だからだろうか……何故か気が付けば兄を起こす役目は弟の仕事となってしまっている。
支度が済んだ隆志はのんびりと家を出た。
しばらく歩いていると、前方に良く知る背中が現れた。
隆志はまさかと思ったが、あの人の背中を間違える訳が無い。
胸をドキドキさせながらゆっくり距離をとって歩く。
隆志には声をかける度胸なんてない。
ふと前を歩いていたあの人が立ち止まった。
どうやら信号が赤で止まっているようだ。
少しずつ縮まる距離に、隆志はさらに鼓動を高めていった。
この信号長いんだよな……と思い出して、ゆっくりと横断歩道に近づく。
少し距離をとって隣に並ぶと、あの人は顔をこちらへ向けた。
「あ、隆志くんおはよう」
「お、おはようございます。有川先輩」
先輩の方から声をかけてきてくれて、幸せな気分になるのと同時に緊張がはしる。
「えっと……先輩。今日は朝練じゃないんですか?」
「あぁ、今日は寝坊しちゃってね」
「そうですか〜〜兄も寝坊してましたけど、ものすごいスピードで支度して家を出て行きましたよ」
「慶志は頑張り屋だからな」
そういって先輩は優しく微笑んだ。
少し胸がズキリとする。