短編

□輝く世界
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 飛行機を見上げた。
 すーっと空を飛ぶ飛行機は僕の思いの塊みたいで、とても愛しい物のように感じる。だが、それと同時に僕の胸を締め付け、胸の奥をジクジクと苦しめてしまう物のようにも感じられる。



「ねぇ、いつか帰ってきてね。大人になったら。僕はずっと、待ってるから!」


 あの時僕が言った台詞は鮮明に覚えている。なのに、貴行(たかゆき)が返してくれた言葉を覚えてはいない。
 あれから何年たっただろうか、今年25歳になる僕は未だに貴行が帰ってくるのを待っていた。
 もういい加減に待つのを止めてしまえばいいのに、未練たらしく貴行を想い続けている。自分でも不思議なくらいに本当に心から貴行を未だに愛していた。
 
 最後に貴行に会ったのは、貴行が外国へ旅立つ前の日だった。
 僕も貴行もまだ中学生で、親の仕事で海外に行く事を、僕たちはどうする事も出来ずに、ただ別れの日をすごした。

 近所の公園、まだ2月で雪が降っていた。
 そこには中学生の俺と貴行が居た。
 寒くて、厚着をしていても震えがくる中、俺達は何時間もその公園で、たいした言葉もなく寄り添っていた。

 本当は行くなって、側に居てほしいって言いたかった。だけど、そんな台詞は貴行を困らせるだけだって、中学生の僕でも分かった。
 本当は貴行も行きたくないのだと、聞かなくても分かったから。

 日が沈んで、辺りが暗くなり、街灯がに灯りがともり、白い雪に重みがます。

 もう帰らなければいけないと、お互い思っていたが、これが最後だと思うと、中々離れられなかった。それは貴行も一緒で、だからこそ、僕から立ち上がった。
 冷え切った唇で軽くキスをして、待ってると伝えた時の貴行の顔を、俺は涙を堪えながら見ていた。
 だから貴行の最後の顔を僕は覚えてはいない。
 きっと貴行も僕と同じ顔をしていたんじゃないかと思う。

 次の日、僕はこっそり貴行の家の近くまで行った。
 遠くから貴行を見ていたかった。
 それと、僕は最後の悪あがきをしていたのだ。
 貴行の家の車をのタイヤをパンクさせたのだ。中学生の俺は、バカみたいにそうすれば貴行が行かずにすむかもしれないと考えたのだ。
 貴行はおじいさん夫婦と同居していて、車もあずけて行くから、処分せずに、その車で空港まで行くと知っていたからだ。
 だが、僕の予想は見事にはずれ、貴行の父親がタイヤを素早く交換し、貴行は予定道理に旅立った。

 
 その日から、僕は飛行機が空に見えると、まるでそこに貴行が居るかのような錯覚に陥るようになった。
 乗ってなんかないのに。
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