短編
□恋するブラザー*中編*
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家に帰ると俺はすぐにパジャマに着替えた。
まだ夕方だと言うのにベッドにもぐりこむ。
今は誰の声も聞きたくなかった。家族の声さえも……。
誰かのくだらない話で笑える気分じゃないし、両親が兄の事を話してい所なんて見たくはないし、兄が帰ってきた時、笑顔で迎える自信が無い。
その日兄はいつもより遅く帰ってきた。
俺は布団を頭までかぶって目をギュッと閉じた。
コンコン
珍しく俺の部屋をノックする音が聞こえた。
遠慮がちに開かれる扉の音を聞いた。
「隆志起きてるか? 今日は寝るの早いなぁ」
「……」
静かに兄は俺に近づいてきた。
「俺……有川と付き合う事になったよ」
「……」
「夢みたいだ。まさか付き合えるなんて考えてなかったから……明日また話すよ。じゃあおやすみ」
扉が閉まる音が聞こえる頃には俺の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
彼の……有川先輩の事を考えるとどうしようもなく胸が痛む。彼は兄の恋人となってしまった。
兄の嬉しそうな声を聞いてこんなに辛くなるなんて始めてだった。
兄は誰からも大切にされる性格で、兄の周りにはいつも人が絶えなかった。
隆志はその真逆で、人との会話の仕方がいまいちつかめず、社交的な兄とは違い、内気に育ってきた。
自分の持ってないものを全てもっている兄を羨ましいと普段から思っていたが、自分の好きな人まで兄がさらって行ってしまったのだから、その気持ちはさらに増した。
もし兄が有川先輩の事を好きでなくても、自分ではどうしようもない思いを抱えて何も出来ずにいたと思う。
だけど……だけど、どうしようもないやりきれない気持ちにおそわれた。
見てるだけで良いはずだった恋だった。
でも……。
こんなに好きで……。
なんだか涙があれて止まらないんだ。