お題

□理解できない
1ページ/3ページ

 コーヒー豆をひく音が響き、豆の香りが辺りに広がる。簡単にドリップコーヒーを作っている彼を見ながら、この家に来るのは2度目だな……と考えた。
初めて来た時は、室内の様子を見る余裕もなく寝室へと連れていかれて事におよんだ。
2回目の今日は、そんな慌てた様子もない彼に、俺はなんだか居心地の悪さを感じた。
会社の上司である彼の第一印象は、笑顔のない固い人間……といった感じだった。無口だが、仕事のできる彼は仕事の出来ない俺を気にかけてくれ、そして段々と惹かれていった。

コーヒーを運んでくる彼を緊張の面持ちで見つめる。

「なにをそんなに緊張しているんだ?」

「い、いえ……別に……」

「そうか? まぁ飲め、キリマンジャロだ」

表情を変えずに彼はコーヒーを渡してくる。

「いただきます」

今日は彼とDVD鑑賞をする為に来たのだが、やっぱり変な感じだ。
付き合ってる者どうしなら、違和感ないんだろうが、俺達は付き合っているのかどうか、いまいち分からない。
好きだと行ったら彼は何も言わずに抱いてくれた。
食事にも二人で行く事もあるし……彼はどう思っているのだろうか、と少し不安になる。
もし彼には本命の彼女が居て、結婚するから、この関係はやめようと言い出したら……。
ぞっとして寒気がする。

家に呼んでくれるようになったし、今見たかぎりでは、部屋に他人の影はない
……。多分大丈夫だろうと思い直した。

彼がDVDをセットしている。
そういえば何のDVDなのだろうか……。
とくにこれと言った会話もなくDVDが回り始めた。

映画は昔流行ったボディーガードだった。
有名な女優が命を狙われ、ボディーガードを雇う話しだが、その女優がボディーガードと恋に落ちるといった内容だ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ