長編

□-Not fate-
1ページ/27ページ



 陽もどっぷりと沈んだ金曜日の夜。宇佐見 秋彦(うさみ あきひこ)はまだ会社に残って残業をしていた。
昼から出かけた営業が思った以上に長引いて、デスクワークに影響が出てしまったのだ。
 デスクワークの苦手な宇佐見は普段から、できるだけ後回しにしていたため、次の出勤の朝には必要な書類ができていなかった。

 宇佐見はごく一般的な平凡な両親の元に長男として生まれ、普通に高校、大学と卒業し、今いる知名度的にはそこそこの会社に就職し、営業マンとして働いている。
 
 とりあえず一通りの仕事を終え、片づけを始めたところで携帯の着信音がオフィスに響いた。
 宇佐見は携帯を取り出し、着信名を見た。

「ゲ……。岡田の事すっかり忘れてた……」

 嫌いなデスクワークで痛む頭を押さえながら電話に出る。

『うぅーさーみ、今何処だよ?』

「ごめん、今まだ会社。今から行くよ」

『お前、忘れてただろ……』

「うん。忘れてた」

『チッ。開き直りやがって。早く来いよっ』

「それじゃ、あとで」

 電話の相手は大学時代からの友達の岡田 星(おかだ ほし)という男だ。人懐っこく人柄のいい岡田とは知り合ってすぐに打ち解けてから、ずっと仲よくしている。少々変わった趣向があるが、宇佐見にとって気の置ける相手で、大学を卒業しても頻繁に会うのは岡田くらいだ。最低でも週に1回は会っている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ