長編
□甘いココアを一緒に
1ページ/26ページ
あのときの俺は、君に恋をしていた。
いつもの喫茶店、いつもの席で、いつものココアを飲んでいる、栗色の髪をしたカッコイイとは言わないが、綺麗な顔立ちをしている男が居た。
その男の名を安永聖二(やすなが せいじ)という。
聖二は切なげに1人の人間を見ていた。
聖二は毎日と言っていいほど、この喫茶店に来ている。
この喫茶店は、聖二の勤める会社から徒歩で10分といった所だ。
そんな聖二の目的が、この喫茶店の店員だ。
名前は建部(たけべ)とマスターに呼ばれていたため知っている。
聖二はこの建部という店員に恋をしているのだ。
いつも建部にばれないように、こっそりと盗み見するように見ているのだ。
年齢は、聖二より年上だろうか、スラリと伸びた足に、スッと整った眉毛、キリッとした細めの瞳は、なんだか優しそうな感じがする。
きっと優しい人なのだろう。
黒い髪と、黒いエプロンが、よく似合っている。
そんな建部との出会いは、1年くらい前にさかのぼる。
たまたま、この喫茶店に入った時、生まれて初めて一目惚れを経験した。
その相手が建部だったのだ。
生まれて初めての一目惚れだが、初めてなのはそれだけではなかった。
そう、一目惚れの相手は男性だったのだ。
初めての一目惚れ。
初めての同姓への思い。
相手に伝える訳にもいかない、きっと軽蔑されて終わるだろう恋に、聖二はこの1年ずっと、悩み続けていたのだ。