長編

□frustrated
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出会い前夜

「春夜〜降りてらっしゃい」

四月のある日、母親に呼ばれ月城春夜は階段を降りていく。

「春夜。飛行機のチケット取ってあるから、ちゃんとお婆ちゃんのお家行くのよ?」

「分かってるよ」

僕は明日、東京を離れ四国にある祖母の家に行く。

今年、大学受験に失敗した。
落ちるなんて微塵にも考えていなかった僕は、ずっと気の抜けた状態だった。

高校も受験や就職などの為に二月は授業もなく自由登校で補習のある人くらいしか行く必要もないのでずっと家にいた。

受験が終わった友達と遊ぶ事もあったが何となく受験に失敗した事で気を使われているような気がしたので、それからは遊んではいない。

誘いのメールはよく届くがなんだかんだと断っていた。

そんな状態のまま卒業式の日が来た。

先生や友達との別れの挨拶を笑顔で事務的に交わしただけの卒業式は終わった。

先生や友達に残念だったと同情の言葉をかけられるのは苦痛だった。

担任なんかは「なぜ不合格なのか分からない」などと言っていたが、そんなの僕が一番分からない。


受験失敗後、親も気を使ってか何も言わずにほっといてくれたが卒業式が終わっても何もしない僕を見兼ねて叔母の家に行けと言ってきた昨日。

もうチケットを取ってきたという母親の言葉に驚いたが、もうどうでもいい。どうせ何処にいたって何もできないんだ……。

投げやりな自分にうんざりする。

「重症だ……」

「何か言った?」

「何でもない。明日何時?」

「12時40分の便よ一時間もあればあっちに着くと思うわ。着いたらお婆ちゃんが迎えに来てくれるから」

「はいはい」

「……」

「…」

「春夜」

「なに?」

「なんでもないわ。もうすぐ夕食出来るから出来たら呼ぶわね」

「わかった」

そうして春夜は階段をあがり二階にある自室にもどり溜め息をついた。

明日から四国だと思うと憂鬱になってきた。そりゃ久しぶりに会う祖母との再会は嬉しいにきまってる。

だが祖母も受験の失敗の事を知っているだろう。

結局何処に行っても同情されるのだろうが祖母にまで同情されるとなると気が重い。

気を使われるのも、気を使うのも嫌な今のこの状態なのに耐えられるだろうか?

不安に思いながらも着替えを旅行バックに詰め込み眠った。
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