小説

□小さな鳥と旅人
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ちいさな鳥が目を覚ました。
虚空を見据える旅人の傍で。
「もう朝ですか?」と鳥は訊く。
「もう朝だ。」と旅人は答える。
「冷えますね。」と鳥は言う。
「ああ、冷える。」と旅人は言う。
遠くの木で大きな鳥が体を振るわせた。
ちいさな鳥は避けるように身を屈める。
「不吉ですね。」と鳥は言う。
「おお、不吉だ。」と旅人は言う。
太陽の光も、其の温もりさえも、覆い隠す雲。
動こうともせずに其処に居座り続ける雲に、
「風が無いのですね。」と鳥は言う。
「風が無い。」と旅人は言う。
「明日の為に生きるのですか?」と鳥は訊く。
「明日の為に生きるのだ。」と旅人は答える。
「時の輪廻を生きるのですね。」と鳥は訊く。
「時の輪廻を生きるのだ。」と旅人は答える。
「今日も同じ言葉を繰り返すのですね。」と鳥は訊く。
「今日も同じ言葉を繰り返す。」と旅人は言う。
「この言葉に意味は有るのですか?」と鳥は訊く。
「この言葉に意味などは無い。」と旅人は答える。
「旅に意味が有るのですか?」と鳥は訊く。
「この旅にも意味など無い。」と旅人は答える。
「何故いつも繰り返すのですか?」と鳥は訊く。
「これが私の運命なのだ。」と旅人は言う。
「明日も繰り返すのですね。」鳥は訊いた。
返事は無い。
旅人はまた“独りで”旅を続けた。
遥か虚空を目指し旅を続けた。


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