四季鬼【薄桜鬼・LS】

□16.凍てつく愛〜20.愛しくて
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【16.凍てつく愛】

[斎藤視点]


「急げ、琥珀を部屋に!!」

板倉様の大声で俺たちはやっと我に返り、横たわる琥珀をそっと担ぎ上げ、綺麗な布団に寝かせる。
千鶴も駆けつけ、患部を押さえて止血しようとするが、なかなか血が止まらないようだ。

これ以上は・・・出血多量で死んでしまうんじゃないのかと、誰もがそう思った。

その時、何を思ったのか千鶴が

「お千ちゃんを呼んでくる。」

そう言って、『お千』と呼ばれる少女の元へと駆け出して行った。その後を「夜道は危ないから」と、平助が追いかけるようにして走っていく。


その時。

「誰か、頼まれてはくれぬか。」

見ると、板倉様は何かを書きしたためた文を持っていた。

「できるだけ早く、これを届けて欲しい。彼女の里なんだが・・・。」

歯切れ悪く話される。
何か・・・訳でもあるのだろうか。

「琥珀の体は、彼女の里の者しか・・・救えないかも知れぬ。」

板倉様は、苦しそうに言う。

すると副長が、

「山崎!」

監察方の山崎を呼んだ。
彼なら足が速い。
忍という事もあるが・・・きっと、この任務を無事果たしてくれるだろう。

「ここに書いた地図通り行けば、森の手前に着くだろう。だが決して、その森に入ってはならぬ。生きては戻れぬからな。森の手前で『千春の使いの者だ』と言えば、誰か来るであろう・・・。」

それまで、静かに聴いていた山崎が

「恐れながら『千春』とは?」

と、聞いた。すると

「琥珀の本当の名前だ。・・・鬼の・・・名前・・・。」

板倉様は、目を伏せた。


先程まで。
金色の鬼が、舞を舞うように羅刹たちを斬っていた。その美しさに、誰もが目を奪われた。

俺には懐かしく、再び会いまみえたかった鬼・・・。

それは、池田屋の時に会った美しい鬼。
あの時も俺の心が、一瞬止まったかのような衝撃だった。
再び会う事が叶うとは・・・。

まさかその正体が琥珀とは思わなかった。


だが、俺の目の前で、金色の鬼は斬られた。

・・・・誰よりも愛する琥珀が斬られたのだ。
俺はその羅刹に止めは刺したが・・・本当は、八つ裂きにしたいほど憎かった。

彼女の美しく纏められていた髪の毛が宙を舞い、触れてみたかった白い肌が、真っ赤に染まる。

彼女は、板倉様と総司を何の躊躇もなく庇って・・・更には、涙する総司を慰めた。



俺の愛する琥珀は、その身も心も美しい。

なのに・・・何故。
なにゆえ、このような・・・・。


あの時、もっと早く俺が動いていれば・・・。



一旦、総司を部屋に戻す。
だいぶ血を吐いたようだ・・・。
血の気が失せて、今は泥のように眠っている。

眠る前、総司は

「一君。もし、琥珀ちゃんが目を覚ましたら一番に教えてくれる?僕・・・真っ先に謝りたいんだ。それと、こんな事いうのは不本意だけど・・・琥珀ちゃんを守ってくれて、ありがとう・・・。」

総司がこんな事を言うのは珍しい。
それだけ・・・ショックなんだろう。




程なくして千鶴と平助が一人の女性を連れて馬で一緒に帰ってきた。
彼女は馬からひらりと飛び降りると、

「琥珀!!!」

と、言いながら部屋で横たわる琥珀に抱きついた。

「なんで?何でこんな事に?」

琥珀から流れる血で、その女性の着物に染み込んでいくのも気にせず抱きかかえている。

なかなか止まらぬ、琥珀の血。

・・・普通の人間なら死んでもおかしくない量。

「着替えさせなきゃ!!」

といい、千鶴を連れていく。
俺たちは、部屋から追い出され、庭に佇んだ。

琥珀の着物を一枚一枚脱がせるたびに

「琥珀、しっかりして!!」
「死んじゃ、いやぁ!!」

その彼女の悲痛な声が響く。

胸の奥が苦しい。
なぜ・・もっと早く、体が動かなかったのか・・・。
後悔ばかり先立つ。


暫くして着替え終わったのか、スッと障子が開く。そこには、今度は銀色の鬼が刀を我々に突き出し立っていた。

「・・・お前たち、琥珀をこのような目に遭わせて・・・ただで済むとは思っておらぬだろうな・・・。」
「「「「!!!!」」」」

背筋が、凍る程の恐怖。
先程の女性の美しい顔立ちはそのままに、髪の毛と瞳が銀色に変わってユラユラ漂う。

怒っていることは明白だった。
やはり、彼女も鬼だったのか。


「千早さん、琥珀さんが・・・。」
「何?目を覚ましたの?」

千鶴に声をかけられた彼女は、カチャッと刀を鞘に戻して

「フン・・・、あとでまとめて切り刻んでやる。まぁ、もっとも、私ではなくあの方達がそうして下さるやもな・・・。それまで、せいぜい首でも洗って待っておれ。」


ピッシャッ。


言うだけ言って、再び彼女・・・千早は部屋に戻った。
彼女は、『千早』というらしい。

・・・恐怖から救ってくれた千鶴に感謝だ。


庭から見える空を見上げると・・・。
先ほどまで血の色をしていた今宵の月は、いつの間にか禊を済ませたかのように、いつもの白色に戻って俺を照らしいる。


・・・さっき、あった事は。夢だったと言って欲しい。目の前で愛する者を斬られた事は、悪夢だったと・・・。





・・・・・・・・☆☆



[千秋視点]


今宵の月は、紅い月。
きっと、どこかで血が流れる・・・。

でも、まぁ・・・僕には関係ないけどね。
他の誰かがどうなろうと・・・・ただ一人の彼女を除いては。

一応、僕だってソコソコ・・・いや、結構もてる。もしかしたら千冬や千夏よりも・・・。

だけど、興味ないんだよね。

どんなに綺麗だと言われる女を見ても、
どんなに可愛いといわれる女と話しても。

僕の心は空しさしかない。
僕の心を満たすのは、愛するあの子の存在だけなんだ。


「・・・千春ちゃんは、今、何してるのかなぁ。」

本当に、なんで・・・妹なんだろ。
それだけは、両親を恨むよ。

もし・・・妹じゃなかったら、絶対に僕だけのモノにしてる。
もう、既に。

千春の事、好きだって気が付いたの・・・物心着いた時からだった。
可愛い仕草、声・・・同じ時に生まれて、同じように育ったのに・・・想う事はいつも、『一つになりたい』だった。

4つ子だから?

でもさ、僕にはどういう理由だっていいんだよ。今はもう、愛してる事には変わらないからさ。

もちろん、一人の女として・・・。

そんな事を考えながらその月を眺めているうち、なんだか急に嫌な空気が周りに立ち込めたかと思った瞬間。

「・・・ッ・・・クッ・・・。」

背中に、まるで斬られたかのような衝撃が走った。
後ろを振り向いても、誰もいない。


・・・まさか。

僕は、急いで千冬の部屋に行く。

「千冬!!」
「どうした・・・。」
「千春ちゃんの身に何かあった・・・。」

僕は漠然だけど、彼女の危機を悟った。
絶対何かあったんだ。
それも・・・致命的な状況。

それは、うすうす千冬も感じたらしい。
その後、すぐに千夏も来た。

「先程から、千春の気配を探しても見つからぬ。気配が弱すぎる・・・。」

千冬が眉間に皺を寄せながら、気配を探っている。でも、こうしちゃいられない。

「僕、今すぐに京に行って来るよ。」

というと、千夏までもが

「俺も行く。いいだろ?」

と、言い出した。




本当、ヤバイ気がしてならない。
こんな事、今まで感じた事が無かった。
だから余計に不安でたまらない。
腕組みして考えていた千冬が立ち上がる。

「分かった。致命的な傷だろうから、血止めの薬を持っていけ・・・あとは、わかるな?」

「「ああ、」」

僕達は急いで用意する。
薬と、食べ物と・・・。

用意が済んで、広間に行くと、千冬が

「先に行っててくれ、俺も用意が出来次第すぐに向かう。今、千春は新撰組の屯所にいる。任せたぞ。」

千冬に見送られながら、僕達は京へ・・・千春ちゃんの元へと急ぐ。
天を駆けながら・・・。


一体、誰なんだ。
僕の愛する千春を・・・よくも!!

絶対、許さない。






千冬の言うとおりに新撰組の屯所に向かった。
一旦屋根に降り立ち、僕達は中の様子を伺う。

シーンと静まり返ったソコには、血の跡がいくつも見られる。

そして・・・中庭佇む者達が口々に妹の名を呼ぶ。

「・・・琥珀・・・大丈夫なのか?」
「琥珀・・・。」

・・・汚らわしい。人間風情が気安く呼んでいい名じゃないんだ。


その時。
障子の向こうから、銀色の鬼が出てきて

「・・・お前たち、琥珀をこのような目に遭わせて・・・ただで済むとは思っておらぬだろうな・・・。」

と言って人間どもを脅した。

「ありゃぁ、安芸の国の姫さんだぜ。確か・・・今、千姫さんとこで行儀見習いしてるって不知火が言ってたな。」
「ああ・・・。ここで間違いなさそうだ。」

一刻も早く、千春がどうなっているのか知りたい。


千早が部屋に戻った後、
僕達は中庭に降り立ち、千春の部屋に向かう。


ザワザワ・・・。



「琥珀・・・じゃねぇよな?」

まぁ、似てるからもっともな言葉。
だが、僕達は残念ながら千春のように優しくはない。

「急いでるんだからどいてくれる?それとも、死にたい?僕らは妹のように優しくはないよ?」
「お前ら、千春が死ぬような事があれば・・・その首、三条河原に並べてやるからな。」

僕達は道を開けさせるために怒鳴る。
悪いけど気が立ってんだ、邪魔したらゆるさないよ。

障子を開けて中に入ると一瞬、中にいた女たちは顔を顰めたが

「翡翠さま、紅蓮さま・・・!」

千早が泣きながら僕達に頭を下げる。

「琥珀が・・・背中を斬られて血が・・・止まらないのです。」

「千春!!」

僕は、久々会った妹が段々透き通っていって・・・消えてしまうんじゃないかって不安になった。

「千夏、薬!」

千夏が薬を出す。
その薬を千春の背中に塗りこんでいく。

僕らの血を混ぜて・・・。


造血って言うのかな?
千春の体内に僕達の血が入れば、早く血が精製される。
僕らは4つ子だから・・・血が、近い。

中でも、千春に一番近いのは僕。
千春と双子だからね。正真正銘。


でも、この薬は・・・相当な痛みを伴う。
僕らは傷口に手を添えて、気を送り込んだ。

少しでも意識が戻るように・・・
早く血が、止まるように・・・。


その時千春ちゃんが

「ああっ・・・・若様、総司!!」

痛みに少しだけ意識が引き戻されたのか・・・うわごとをいい始めた。

・・・だけど。

開口一番が他の男の事を心配している言葉っていうのは・・・何だか、ムカムカするんだけど。

さっきまでは意識さえも戻らなかったから、千早たちも少しホッとした様子だった。
何はともあれ止血は成功して、少しだけ峠を越えた。


確かに一命は取り留めたのだけど・・・。
意識が一瞬戻ったとはいえ、まだまだ意識が混濁していてうわ言ばかりを繰り返す。

「琥珀さん・・・。」

幼い顔をした千鶴という女鬼が瞳から涙を流して千春を見つめていた。

千春の傷は背中を袈裟掛けに斬られていた為、着物を着せて上向きに寝せれない。その為、仕方なく上半身裸で、包帯をグルグル巻きでうつ伏せにされている。
出血が止まった後、今度は熱が上がり何度も何度も額を冷やすがすぐに熱くなってしまう。

「うわ言ばかりだな・・・。」
「ああ・・・・。」

千夏が心配そうに覗き込む。
この時に千春が言ったうわ言は

『若様、総司・・・危ない』
『斎藤・・・』
『千景様・・・』

・・・・全部、男だ!!

許せないんだけど。
その可愛い唇から、他の男の名前が出るなんて・・・。考えただけでも、虫唾が走る。

特に『千景』だけは、ダメだ。
どうにも我慢できない。

まぁ、時に、『お兄様』とか『千秋お兄様』とか言ってたりするのだけど・・・。



そして、なんとか朝を迎えた。




血薬を作る事、傷を塞ぐ為に気を送る事は吉備の鬼達の秘中の技。要するに、延命のようなものだからね。

僕達は疲れて、いつの間にか眠り込んでいた。ふと気が付くと、千冬が部屋に入って千春の横に座っていた。

「二人とも、昨晩はご苦労だったな。止血は成功したんだろ?」
「ああ。だけど、まだ・・・完全には意識が戻らないんだよね。」

僕は心配だった。
高熱で、意識が戻らねば更に体力を奪われる。

「傷は、消えたのか?」

千冬は布団を剥がし、千春の背中を見る。
そこは、もう・・・雪のように白い肌に、斬られた傷痕がほんのり薄桜色しているだけになっていた。

「千早殿・・・すまないが、千春に着物を着せてやってくれまいか?我らは男ゆえ・・・妹とはいえ妙齢の女性の肌を見るのは、まずいであろう?」

僕達が後ろを向いている間に、千早は素早く着せて仰向けにする。

千冬は千春の額に手を乗せながら少し考えて、

「傷は癒えたが、意識が戻るまでここを動かせない。暫く置いておくより他に無いな・・・。」

と呟く。
本来なら直ぐにでも吉備の国に連れ帰りたいのだけど・・・。
意識が無いものを無理に違う所に運べば、その意識が元の所に戻れなくなるからだ。


うわ言を繰り返す千春。

兄弟たちが見つめる中、僕は心の中で呟いた。

(いつになったら、その瞳で僕の事を見つめてくれるのかい?
お兄ちゃん
お前のいない世界なんて、要らないんだよ。
僕の命をすべてあげてもいい。
だから・・・
早く、早く僕の元に戻っておいで?
いっぱい愛して上げるから・・・。
キミだけの愛を、その腕いっぱいにあげるから・・・。)




千春の瞼は、重く閉じられたままだった。


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