四季鬼【薄桜鬼・LS】

□6.再会〜10.愛しき人
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【6. 再会(その一)】




ある月明かりの綺麗な夜。
私は板倉様の内密の書状を会津様にお届けする任務の遂行中だった。


(月が綺麗だなぁ・・・)


私は月を愛でながら、会津様のところへ向かう足を速める。




京も最近は物騒になってきた。
特に辻斬りが多いと言う。

(私は大丈夫・・・)

とは思いつつも、夜の一人歩きはさすがにちょっと怖い。

男装してるから、襲われたりはしないだろうけど。
中身は女だからな。

そんな事を考えていると、近くで人の叫び声がした。

(えっ・・・もうですか?)

内心ビクビクしながら、声がした道を覗く。

すると、月明かりに浅葱色のダンダラ模様の羽織を着た男が立っていた。




下には男がうつ伏せに倒れていて、既に死んでると思われるのに執拗に刺し殺してる。


なにもあんなに刺さなくっても・・・。

ふと昔の父上たちの光景が眼に浮かぶ。
むごい死に様は・・・もう見たくない。


「死者をそこまでいたぶらなくても・・・。」

私は、我慢できずにその男たちに話しかけた。


すると、振り返った男たちは・・・


髪が白く
目が真っ赤な

(・・・鬼?)

のようだった。


白妙の太刀が、鍔鳴りする。

(こいつら鬼じゃない・・・まがい物?)


「血だぁ・・・血をくれぇぇぇぇーーー。」


こちらに向かってくるそいつ等を片っ端から一撃で仕留める。

『・・・・・。』


その鬼のような、まがい物達は何かを呟きながら、安らかな笑みで私を見つめ、そして目を閉じた。


一体なんだったんだ・・・。


ふと、気配がする方に目を向けると、物陰で震えている少女がいた。


強い、鬼の気配がする少女。


「もう、いなくなったよ。出ておいで?」

そういうと、彼女はゆっくりと姿を現す。


「怖かっただろう?」

私は、男装した彼女の袴に付いていた泥を払ってやる。


「女の子なのに、こんな格好して・・・。」

彼女は変装がばれていた事に驚きながらも私に礼を述べた。


「あの、助けてくださってありがとうございました。私、雪村千鶴と申します。」

「雪村・・・?」



彼女の言葉に少なからず驚いた。

この気・・・純血種の女鬼。しかも『雪村』と言う・・・。

(東の雪村は滅んだと聞いてたけど・・・。)


彼女は純粋な瞳で私を見つめている。

(嘘じゃ・・・なさそう。)


「私は琥珀。貴女、宿とか行くトコあるの?よかったら、うちに来る?」

私は、彼女をもっと知りたくなって聞いてみた。







「お取り込み中悪いんだけど、それは出来ないんだよね。」


振り返ったらそこには先程のヤツと同じ浅葱色の羽織を着ている人間達がいた。

私はゆっくり立ち上がって彼女を背中に隠す。


「見ちゃったよね・・・って言うか、キミ倒しちゃうし。」
「・・・・。」
「どうする?一君。」
「俺に振るな。」

(新撰組だ・・・面倒な事になっちゃった。)


ジリジリと間合いを詰められる。


「申し訳ないけど、所用がある・・・。」
「所用って言ってもねぇ・・・。そういえばキミ、この前もそう言って逃げたよね?」

「総司、知ってるのか?」
「クスッ。ちょっとねぇ・・・。でも今度は逃がさない。・・・逃げたら、斬るよ?」



以前、若君と一緒にお団子食べてる時に会ったやつだ・・・。
コイツ、性格悪そうだなぁ・・・隣の髪の長いヤツは隙が無さそうで逃げにくい。

もう、後ろには家の壁でそれ以上行けそうに無い。

まずいんですけど!!
一応、仕事中なんだけど!!



「お前ら、何してる!」

すると、丁度いいタイミングでもう一人の男が声をかけて来た。

「あっ、副長。」


一瞬切れた隙を見つけ、私は走りだした。

「千鶴ちゃん、また後で会いに行くね?」

彼女にはそう告げて。


私が走り出した途端、もちろんあの『総司』と呼ばれていた男が走ってくるのがわかったけど、鬼の私に敵うわけ無いでしょ?

彼には

「また近々、伺うよ!」

そう言って、振り切った。




千鶴ちゃんの心配はあったけど、ある意味、新撰組ほど匿うのに適した所も無いから、しばらくは様子を見よう。

そう思いながら、会津様の元へ主の使いを終わらせるのだった。











次の日。

家の前に胡桃がにこやかに、

「板倉様の書状です。これを新撰組に届けるようにとの事です。」

と言われた日には、眩暈で倒れるかと思った。

そんなにも早く、あそこへ行くとは思ってなかったから・・・。







仕方なく、壬生の屯所に向かう。

(昨日の今日で、『お役目』と言って聞き入れてくれるかなぁ?)

心配は尽きないけど、主の用は果たさなければならない。
京都にいる間は住まいも借りてるわけだし・・・。


気が付けば、門のところまできていた。

「ごめんくださーい・・・。」


しーーーん。


誰もいないのか?
無用心な。


私は、勝手に上がらせて貰う。

(早く用を終わらせて帰りたいしね。)

気配を消しながらも奥へ奥へと足を進める。



奥では、どうやら千鶴ちゃんの処遇で色々と揉めてる様だった。
あの性格悪そうな沖田らしき声は

「さっさと殺しちゃおうよ。」

なんて言ってるし。


やっぱり・・・性格悪っ。


話し合いが終わるまで、私は縁側に座っていた。

春の日差しはぽかぽかしてて気持ちいい。




・・・ふと気づくと。


カチャッ・・・。



刀の音で目が覚めた。

「ここで何してる。」

(ははは・・・寝てたわ。)

刀を背中に当てられているのがわかる。

「お話し合いが中々終わりそうに無かったので、ここで一服してたんです。もう、終わりましたか?私は局長さんにお目通りしたいんです。」
「何用だ!」
「別に怪しい者じゃないですよ?」

私は振り向き様に背中に当てられてた刀を掴む。

「・・・私が斬れますか?それとも・・・この刀を折りましょうか?」

「なに!!」

私が握ったその刀は微動だにしない。
髪を横に束ねた剣士の顔が曇る。
声を聞きつけた男たちが、私を取り囲んだ。

「お前・・・誰だ?」
「あれぇ。昨日の約束をもう、果たしにきたんだ?律儀だね。でも、今日は逃がさないよ?」

そう言って、刀を向けてくる。

「・・・フッ。何度だって逃げるさ。私はお前のモノじゃないからな。でも、今日はお前との約束を果たしに来たんじゃない。」

私は、近藤局長に向かって

「すいませんが・・・この方々に剣を納めるように言ってもらえませんか?」

「お前たち、剣を納めなさい。」

すると、しぶしぶ引き下がってくれた。

「ありがとう。あとでいくらでも手合わせは致しますので。」

私は斎藤と沖田に向かってそう言い、近藤局長に向かって

「さる御方からの書状です。お読みいただきたいのですが・・・。人払いしていただけますか?」

と一応お願いしてみた。
案の定、

「怪しいヤツと一緒にさせられねぇ。」

と、あちこちで叫び声がしてきた。

「それでは、どうぞご同席ください。」

私は、仕方なしに煩い隊士達を同席させる事にした。

まぁ、板倉様の書状には

『今後、幕府関係の事でこの者を遣わすことになる事も多いだろうから、見知り置くように』

って内容だろう。

そんなにひと悶着起すほどのものじゃないでしょ?

局長はその書状を読み終えると。

「キミは・・・一体何者なんだ?」

と真顔で聞いてきた。

「私は、そこの書かれた内容の事を成すための者です。名乗るほどの者ではございません。」

「でも、名前くらい教えては貰えないのか?」


私は、その時・・・何かの声がしたのかもしれない。
いつもは隠し通す名前を・・・つい、名前を言ってしまったから。


『沙羅・・・琥珀』・・・と。


「琥珀くん・・・か。あいわかった。皆、聞いてくれ。この人は怪しいものじゃない。老中板倉様の預かりの方だ。見知り置いてくれ。」

近藤さんは気さくな方のようだ。
懐が広いと言うか・・・。
本当は、色々と怪しいに決まってる。
だけど、全て飲み込んでくれているようだった。


「わかって貰えたのだったら、それで結構。そろそろ急がないと陽が暮れるので失礼いたします。」

私が立ちかけると、

「帰る前に僕と手合わせ・・・してくれるんだよね?」

と有無を言わさぬ雰囲気で沖田が言う。
その場の約束とはいえ、約束は約束。仕方なく、私は手合わせする事にしたのだった。









・・・疲れた。
沖田ってあの男。
確かによっぽど腕の立つ剣士らしく、刀を構えている時は鬼神のようで、払う剣から風が生まれていくような剣さばき。
私も久々、少し本気モードになってしまった。

でも、私が本気を出したら・・・
この家ぶっ飛ぶし、けが人は出るだろうし、何よりも『鬼』としての私の気配が放たれてしまう。

それだけは避けたかったから押さえ込むのに必死だった。

だからか・・・非常に疲れ果ててしまった。
更には、終わったのは深夜になってしまい




・・・結局、ここに泊まる事になってしまった。










一息ついてるところに

「琥珀様?」

障子がすーっと開いて、千鶴が顔をのぞけた。

「千鶴ちゃん。大丈夫?」

私は体を起す。

「はい。私は、大丈夫です。ここにおいて貰える様になりました。昨日はお礼もそこそこになってしまって、すみませんでした。お湯・・・貰ってきたんで、顔を洗ってください。」

手ぬぐいを差し出してくれる。
可愛い妹のようで、目が離せない。
すると私の視線に気づいたのか、千鶴は

「やだ・・・そんなに見つめないで下さい。恥ずかしい・・・。」

そう言って顔を赤らめ俯く。

もしかして・・・勘違いしてる?

「千鶴ちゃん・・・。」

誤解を解こうとして彼女に手を触れた瞬間、彼女は更に顔を真っ赤にして、部屋から勢い良く飛び出してしまった。




・・・更に誤解・・・した?


そのあと、千鶴は部屋に来なかったのだった。







新撰組との出会いは、私の中の歯車を少しずつまわしていく。




運命の時に向かって・・・。








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