四季鬼【薄桜鬼・LS】

□6.再会〜10.愛しき人
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【7. 再会(その二)】



「琥珀様。」

ある日、私は夕飯の支度を済ませ、これから御飯を食べようとしていた時、不意に呼び止められた。

板倉様の隠密、胡桃だった。

「これから御飯食べるんだけど、胡桃も食べてく?」

「そんな悠長な事、言ってる場合じゃありません。」

胡桃の表情は、いつもよりも緊張した面持ち。

「何があったの?」

私は、御飯を食べながら聞く。

「新撰組が、今日、不逞浪士を取り締まるべく乗り込むそうです。」

「ふーん。それが私と何か関わりがあるの?」

話の内容が深刻だから、食べる速度を上げる。

「新撰組の方から会津様宛に援軍を願い出てきたのですが・・・。」

「会津様は、出されなかったんでしょ?」

武士のする事の本音と建前。

彼らから見れば、新撰組は只の浪士。
そんなヤツラに主導権を握られてる争い、手を付けたくはないのだろう。

御飯を食べ終わった私は、流しに食器を水に浸して、私は会津様の元に行く事にした。




京都守護職の会津様にお目通りを許され、事の次第を伺うと、私が思ったとおりの答えだった。

最も。
それは会津様の口から出たものではなく、お側用人からだったけど。

「わかりました。それでは、私が参りましょう。さすれば、新撰組のほうも援軍を出してもらえたと理解できるでしょうし、万が一、不手際があったとしても私の事を知らぬと通していただければ、会津様にはご迷惑も掛かりませぬ。」

そう言って、私は壬生の屯所に急いだ。
一応、馬をお借りして・・・。



急ぎ、屯所に来てみれば、山南さんが門のところに立っていた。

「あ・・・あなたは。」

彼の言葉を遮る様に

「みんなはどちらに向かったのです?」

と聞き返す。
情報では、直前まで池田屋か四国屋か決まってなかったからだ。

「最初は二手に分かれてましたが、確実な情報があり、池田屋に向かってます。あなたは・・・。」

「会津様の援軍です。人は少ないですが・・・役には立ちますよ?」

私は、山南さんの不安そうな顔が少しだけほころんだ。

「あなたの実力は先日の一件でよく知っています。どうぞよろしくお願いします。」

そうして彼は、笑顔で送り出してくれた。





池田屋の近くになり胡桃に馬を預け、徒歩で向かう。
分かれて向かっている隊はまだ到着していないようだった。
私は、身を池田屋に滑り込ませる。


戸口を守っていた隊士に

「会津様の手の者だ、開けてくれ!」

と言って開けてもらい、状況を聞く。

「2階は総司と平助が行っている。そっちに向かってくれ。」

急ぎ、2階へと駆け上がる。




ドターーン。


上がった途端、すごい音をたてて誰かが襖を押し倒しながら飛んできた。

藤堂平助だ。

「平助、大丈夫か?」

怪我をしたのか、血が流れている。
患部を強く締め付け、血が止まるように手早く応急処置をする。



「力の加減がわからなかったので・・・すみませんね。」

敵なのに、敵か味方かわからない言葉を話す。


そして・・・。


・・・鬼の気配。


この建物に入る前から感じてはいた。
だけどまさか、ここで敵対するなんて考えても見なかった・・・。

「・・・目には目をと言います。平助のやられた分はその身に受けてもらいますよ?」


私は相手を正面に見据えて刀を構える。

「・・・・。」
「・・・・。たァ!!」

間合いを詰めながら、赤毛の男に向かって切り込む。




キィーーン。




刀が打ち合う音が続く。
男鬼相手に、私の今の姿では相手に出来る時間など殆ど無いに等しい。
それに、この男は手馴れだ。
私とていつまでも持ちこたえる事ができるか・・・。


その時、この男は

「・・・貴方のその刀は、並みの刀ではございませんね。まるで・・・はっ!」

私の正体が見破られてしまったようだ。



そう・・・。
この刀は、人間で言う妖刀。
鬼でなければ扱えないのだ。

「貴方は・・・私達と同属の者ではありませんか?何故そのような者達と・・・。」

その男は私に向かって言う。


私は、体の中から湧き出る力を抑えきれなくなっていた。

鬼と戦っている間に目覚めた私の中の『鬼』と言う力。

「私の本当の力・・・見たいのか・・・?」

白妙の剣に力を込めて放出させる。
私は姿を変えながら力が次第に高まるのを感じた。
それでも、女鬼という正体だけは隠し
て・・・。





ドカーーン




次の瞬間、隣の襖に赤毛の男をたたきつける。
私の払った剣にはその男の血糊が滴っていた。


襖の向こうで、血を吐きながら総司が他の男と戦っているのが見えた。
その男がこちらを振り返り、赤毛の男に駆け寄る。

「天霧!どうした!!」

「すみません、風間・・・ちょっと油断してしまいました。このくらいの傷、すぐに癒えます。」


・・・風間?
もしかして、千景様?

私は、総司に駆け寄り声をかけながら彼らの言葉を聞いていた。

「総司、大丈夫か?」
「僕は・・・まだ戦える・・・。」

殆ど虫の息ほどしかしてないのに強がる総司を労わる。

「もう、休んでいろ。」


赤毛の男と話していた男が私に剣を向ける。

「お前は・・・何故幕府なんかと手を組んでいるのだ。まぁいい。天霧の分は返すぞ?」

私は、剣を向けてきた男に向き直る。

「俺の名は、風間千景。稀に見る腕前だな?あの天霧を倒すなど・・・貴様も鬼だろう?」

(本当に、千景様だ・・・。)


愛しい名前を聞いたと思った。
随分と昔に聞いた、私の心を締め付ける只一人の御方。

・・・お慕いしているのに・・・こんな出会いなんて・・・。


(私の事なんて、もう・・・お忘れですよね?)

女鬼だという事を隠しながらの戦い。
もし、私とわかったからとて、何になろう。
帰る家を失ってしまった私を・・・後ろ盾を失くしてしまった私を娶るなんて、考えられない。




何故なら、彼は西の頭領なのだから・・。




「私の名前は・・・琥珀。」

あえて、苗字は言わなかった。

「琥珀か。フン。お前の力を存分に見せてもらうぞ!」




キィーーン


刀を交える音が部屋にこだまする。

今の私は、金の鬼。
いつもの黒い髪も瞳も金に変わって元の姿はわからない。

・・・千景様が知ってる、昔の私は・・・この姿じゃないから、判る訳ない。






勝負は互角だと思う。
一撃で決着がつきそうだった。

そんな緊張感を切り裂いたのは、天霧さんと千鶴の声。


「風間!」
「沖田さん!!しっかりしてください!」


私たちが向き合っている間に、千鶴が総司を起す。
その声に彼は千鶴を見つめる。

「女鬼か・・・。」

「まぁいい。今宵は面白いものが見れた。また会おうぞ、琥珀。そこの女鬼もな。」


フッと笑った千景様は天霧さんを担いで窓から消えていった。




知らず知らず・・・涙が頬を伝う。
もう、昔には戻れない・・・。
愛しい千景様には私がわからなかった。

私は・・・一日も忘れた事なんて無かったのに・・・。

でも、仕方ないのかもしれない。
これで、良かったのかもしれない。
愛しい千景様に刃を向けてしまった今の私には、妻になる資格なんてないから・・・。

彼が消えていった外を眺めながら呟く。

(千景様・・・私は、それでも慕っております。この身が滅ぶその時まで・・・。)



私は元の姿に戻し、千鶴と総司に駆け寄る。
総司は、いつの間にか気を失っているようだった。

「千鶴ちゃん、総司と、平助をお願い。」
「はい!」

私は、他の隊士達に混ざって斬っていく。
この心を紛らすように・・・。



そして、池田屋事件は幕を下ろすのだった。






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