四季鬼【薄桜鬼・LS】
□21.キミへの愛の隣〜25.瞳の声
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【22.この気持ちを貴方に寄せて】
故郷の里に帰る時間が近づく。
私の元には見送り・・と言う事で、千早が来て支度を手伝ってくれていた。
「だいぶ・・・よくなったね。良かった。あの時、本当に心配したんだからね?」
ブツブツ言いながら、千早は私の服を着替えさせてくれる。
実はまだ・・・一人で立っているのは辛い。
横には千鶴が物珍しそうに見ている。
「千鶴ちゃんは初めて?この服。」
「はい、あまり・・・この服着てる人みた事無い気がします・・・あっ、そういえば昔読んだ本の挿絵に・・・アレ、天女の絵でしたけど。」
吉備の鬼の正装は少し古風で、最近では着ている場面を見る事はないから、見慣れないものかもしれない。
「じゃぁ、よく見といてね?明日からは千鶴ちゃんが着せてあげるんだから。」
「ハイ!」
お昼・・・局長達に挨拶に行った後、千秋お兄様は、私を縁側に置いてどこに行くのかと思っていたら、
なんと。
千鶴を吉備の里に連れて行くことを局長達に了承させに行ったのだった。
『元々、千鶴もこの新撰組にいるのは父親代わりの綱道のせいだろ。彼の居場所を知るためだけだったらここにいる必要もないし、実際・・・足手まといになるだろう?
それに・・・千春の命、落としそうにしたお前たちに反論なんて、ないよね。』
千秋お兄様は、千鶴の身を案じてそうしたようだった。
もっとも。
私が見るに・・・本意がソレじゃなくて。
実は、千鶴に気があると見ている。
相変わらず私に対しては溺愛度高いけど、千鶴の事も少し意識してるみたい。
千鶴には『千春の面倒を見てほしい』と言う事にしてるようだけどね。
鈍いよね、千秋お兄様も。
自分のこととなるとからっきし分かって無いみたい。
・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・・・・・・・・・
着替え終わって、千早は障子を開ける。
廊下にいた兄達が部屋に入ってきた。
「千春ちゃん、綺麗だよ。」
「千春・・・荷物はオレが持って行ってやるからな。」
「さぁ、出立しよう。」
千冬お兄様が私を優しく抱き上げる。
いつもは千秋お兄様の腕の中に納まって端正な顔立ちをマジマジと見ている私も、久々間近で見る千冬お兄様の更に整った顔には・・・兄弟ながらほんと、ドキッとしてしまう。
「・・・どうした。」
ゆっくりと微笑む千冬お兄様・・・・。
月に照らされて、銀色の髪が輝きを増す。
紫色の瞳で見つめられると・・・ドキドキがとまらないよ。
「あーもう、オレだって千春に触りたいのにさ!」
千夏お兄様が膨れっ面で私をみる。
「仕方ないよ、ここは千冬の番だろ。」
「お前は散々触ってるだろ、千秋!!」
妙な口げんかをしだすお兄様達。
「相変わらず、仲がいいな・・・お前んトコ。」
夜陰に紛れて、蒼い髪の不知火さんが庭に降り立つ。
「匡・・・お前、何しに来たんだ?」
「風間がな、無事に姫さんが帰るか見て来いって言うもんだから。ちょっくら見学。」
「何だと?じゃぁ千景に言っとけ。『千春が欲しければ決闘』だとな。俺たちがヘマするわけねーだろ。人間共じゃあるまいし。」
千夏お兄様は不知火さんに向かって叫んでる。
後ろから、不知火さんの婚約者でもある千早が
「匡、やかましいわよ。これから出立なんだから。千景様にはちゃんとお伝えしておいてよね?」
と、怖い剣幕でまくし立てる。
はぁ〜
と不知火さんのため息が聞こえる。
「分かったよ。まぁ、気をつけてな、姫さん。」
「・・・不知火様にもご心配おかけしてすみません。千景様のことよろしくお願いします。」
不知火さんに別れを告げて、ふと廊下を見ると・・・そこには新撰組の幹部の人達が集まってきていた。
兄達の手前、何もいえない様子。
千鶴は、駆け寄って最後の別れを告げて戻ってきた。
「お前は・・・言う事無いのか?」
見上げた視線に千冬お兄様の温かな眼差しがあった。
「うん・・・お礼・・・もう一度、言いたい。」
千冬お兄様は少しだけ・・・皆の方に私の体を向けてくれる。
私も・・・その時には既に、人形ではなく異形の姿。
金色の髪と金色の瞳。
月の光は、私のその姿を顕にしていく。
「皆様・・・ご面倒おかけして、すみませんでした。また・・・会いに来ます。それまで、どうかご無事で・・・。」
コクリと頭を下げ、私は再び千冬お兄様の腕にギュッと抱えられる。
みんなが好きだったよ。
今も・・・好きだし
これからも、好き。
どうかこの戦争で死なないで・・・生きてて欲しい。
貴方達の事・・・ちゃんと見届けたいから・・・。
私は、そんな願いを込めて空を駆けて行く。
温かい・・・お兄様達に包まれて。
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