血染め桜の夜叉

□第一夜
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−文久3年(1863年)


すっかりと陽が西に沈んでしまった頃、薄茶色の長い髪を上に結い上げ、まだ幼さが残る顔は表情を殺してしまったように無表情。
その顔に合わぬ黒い鞘に納められた刀を腰から下げている。この少年−否、少年のような少女は一人、月明かりに照らされる山道を歩いていた。

少女の名は沖田総司。
名前は如何にも男の名だが、これは総司の姉が産まれてきた子が女子とは思わずに間違って付けてしまったのだ。だが、総司はこの名を何かと気に入っているので一度も嫌な思いをしたことがなかった。

総司はそろそろ夜も更けようかとなっている事に気付き、此処等で野宿しようかと思ったその刹那。
微かながらに感じた鋭い殺気。総司は背中にある荷物を、その場に放り投げると殺気に向かって駆け出した。

凍てつく夜の山道を草履で蹴っていると、大人数の男達に囲まれながらも、鋭い眼光を飛ばし刀を振るっている一人の青年の姿が見えた。
だが、刀を振るっている青年は何処か怪我をしているのか顔色が悪いその顔には脂汗のような汗が出ている。しかも青年の周りには大人数の浪士。正しく多勢に無勢であった。
総司は目の前の浪士を蹴り、男の前に降り立った。突然の総司の登場に目の前の浪士と青年は驚きの表情に染まる。


「…殺気を感じて来てみれば、一人の男に対して大勢の浪士。貴殿方は浪士である前に侍でしょう?…武士道というものはないんですか?」


目を伏せながら呆れたように言う総司に、一同は呆然としてましった。
それから直ぐにハッと我に返り、総司に向かって声を張り上げる。


「何者(ナニモン)だテメェは!!」


が、総司はそれを綺麗に流しながら、後ろにいる青年にそっと囁いた。


「…微力ながらに加勢しますよ。怪我人が刀を振り回しているのに、見て見ぬふりなんて出来ませんから」


囁くと同時に総司がシャンと小さな音を立てながら鞘から刀を抜き出していると、一人の浪士が声を張り上げた。


「…構うこたァねぇ!!相手は二人だ!!このガキも纏めてやっちまえッ!!」


一人の浪士の張り上げた声により、血気盛んな浪士は総司達に纏めて掛かってくる。
だが掛かってくる最中に総司は、目の前に来た浪士らをとてつもない速さで一蹴する。総司に掛かってきながらも恐れを為している浪士に鋭い突きを浴びせる。すっと刀を抜けば途端に吹き出る赤い鮮血の華。その行いを何度か繰り返していた。
その様子は何処か背後に立つ青年のことを護っているようにも見えた。

総司が刀を振るう度に夜の闇に銀色の白刃が煌めており、総司の後ろにいる青年は目を見開いていた。
こんな年端も行かないガキが刀を振るうことに躊躇のもなく、尚、鮮血を見ても動じないのかと。

総司の一部始終を見ていた青年は、獲物を見つけた獣のような目で総司を見やる。そして思わず口端が上げっていることにも気づかずに、背後から攻めて来た浪士を刀で斬りつける。それと同時に総司に声を張り上げた。


「オイ、ガキ!今はテメェが何者なのか聞かねぇ!!…テメェの背中は俺に任せな」


青年は不敵な笑みを薄く浮かべると怪我をしていることさえ忘れ、赤髪を靡かしながら浪士らを刀で一瞬の内に地へ伏せさせる。その姿は獰猛な鬼神のようだった。

 









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