血染め桜の夜叉

□第一夜
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止めなく向かってくる浪士を総司と青年は背中合わせに斬っていると、いつの間にか浪士は誰一人とて居なくなっていた。途中から加わった青年の斬り伏せに恐れを為したのか、尻尾を巻いて逃げたのだ。

総司は刀に付いている鮮血を一振りして、鞘に納めながら青年に抑揚のない声で話し掛ける。


「怪我は大丈夫ですか?」


「……は?」


総司の突然の問いに男は頓狂な声を上げ眉を寄せる。そんな青年の様子に総司は訝しげに首を傾げる。


「僕が来たときに怪我をしていましたよね?」


少し斜めに首を傾げる総司に、青年はあぁ…と小さく溢した。そういえば目の前のことに夢中になりすぎて、すっかり忘れていた。思い出したと同時にズキリと腕が痛み出し、思わず近くの幹に凭れかかる。


「……っ」


(…チッ、少し無茶をしちまったか)


左腕を押さえる青年に総司は膝を付きながら、男の左腕を押さえる右腕を退けて傷口を見やる。無茶をしてしまったせいで、傷口を開いてしまっているようだ。


「怪我をしているのに無茶をするからですよ」


と総司が青年に向かって呆れたような口調で言うと、青年は総司から苦々しげに視線を外した。そんなこと言われなくとも分かっていると言いたげな様子だ。
総司は溜め息を一つ溢し、着物の合わせ目を掴むと腰までずらす。はだけた肌は透き通るように白いが、胸元に巻かれた晒しが青年の目に入る。その総司の摩訶不思議な行動に青年は眉を寄せる。


「…オイ、何して…ッ!?」


訝しげに出た言葉は最後まで出なかった。何故なら総司が何の躊躇いもなく、胸元に巻かれた晒しをほどき出したからだ。


「…っ、なっ!?」


そして青年が次に驚いたのは、晒しが無くなり露になった丸い膨らみ。月明かりに照らされる総司の体から何処か艶かしい雰囲気が漂う。
突然の出来事に青年の顔が思わずカッと赤くなる。別に色恋に疎い訳ではない。だが、少年だと思っていたガキが女で、目の前で丸い膨らみを見せられて顔が赤くならない男は居ないだろう。

総司は青年の心情を露知らずに着物を着る。だが、晒しが巻かれていないので胸の膨らみが目立つ。
そして空いている手で青年の手を掴むと解いた晒しを、止血の為に破いた着物の袖と一緒に手際よく巻いていく。
止血用の袖が下にあるとは言え、今まで総司の胸元に巻かれていた晒しの生暖かさが袖越しに伝わってくる。


「………っ」


青年は顔が赤いのを総司に悟られぬよう、総司から視線を反らしながら早く終れと願うばかりだった。










「よっこらせ…っと」


それから暫くして現在、総司は青年と共に野宿する予定だった場所にいる。
晒しを巻いて青年の隣に腰を下ろす総司に、なんとなく嫌な気がしない青年は内心で狼狽える。
気を許した仲間なら兎も角、会ったばかりの総司にこうも気を許すとは。
普段の青年ならば、仲間じゃない者が馴れ馴れしく隣に座ったら、近寄りがたい雰囲気を出して近寄らせすらさせないのだ。
そんな自分を不思議に思いながら、隣に座る総司に声を掛けた。


「…オイ」


「なんですか」


青年が声を掛ければ総司は、見向きもしないで抑揚のない声で返事をする。


「…何で見ず知らずの俺に加勢し、助けた」


すると総司はちらりと青年に視線を移し、はぁーっと長い溜め息を吐いた。そして呆れたように口を開く。


「…来たときにも言いましたように、殺気を感じて行ってみれば、怪我を負った貴方が刀を振り回していました。しかも相手は貴方が一人なのに対し大勢の浪士。正しく多勢に無勢な状況を見て見ぬふりなんて出来ません。だから加勢しました」


「何か問題でも?」と言いたげな雰囲気を醸し出している総司に、青年は内心で薄い笑みを浮かべた。
ただのガキだと思っていたが、案外面白い奴じゃねぇか。
青年は知らず知らずの内に、喉の奥で笑っていた。微かに肩が震え始めた青年に総司は訝しげな視線を送る。


「ククッ、…面白ェ。気に入ったぜガキ。俺の名前は岡田以蔵だ。ガキ、テメェの名は何だ」


「…ガキじゃないですが、僕の名前は総司。沖田総司です」


宜しくお願いします、と手を差し出して来た総司に、以蔵はその手を握った。そして女性特有の柔肌に改めて女なのだなと以蔵は思った。


しかし、この時…両者はまだ知らない。この出会いから約一週間後、総司があの"新撰組"に入隊するということを。
敵対関係になってしまう総司と以蔵のこの出会いは、果たして偶然だったか、それとも必然だったのか…など一体誰が知っていようか。










人斬り以蔵
(因みに僕は18です。ガキなんかじゃありません)

(じゅ、18ーッ!?全然見え…(ゾクッ))

(……塞がりかけたその傷、開かせられたいんですか?)





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