100万hit企画

□敗けっぱなしの一方通行友情
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「アールちーー!! 東の農村潰しに行こーぜー!!」

「舞雷竜鬱陶しい」

「冷たい!! アルちーもっと楽し気にやろうって!!」

「?? たのしい?舞雷竜は変なことを言うね、たのしいってなんなの?よく解らない意味が解らない。知らないけどあんまり気にならないから別に良いや。だからどうでも良い」

「鬱陶しい解るのに楽しい解らんってどういうこった…こないだジン吉と一緒に居て楽しい言ってたじゃん……」

「言ってたっけ?あぁ言ってた様な気がする、でもジンオウガが居ないから明確に思い出せないや。ジンオウガが居ないと駄目だな、つまらない、解らない、じゃあジンオウガ探さなきゃ」

「えぇーー俺と遊ぼうよーアルちー!」

「嫌だ」


バッサリと切り捨てられたのはもう何回目か…数えてたら本気で凹みそうになるからいつもノーカンだ。
眉を少しも動かさず真顔で拒絶してくるアルちーでも、ジン吉前にすると一変するから不思議だよなぁ…。
何つーか恋する乙女?みたいな?頬は赤く染めるし良く笑う様になるし、それこそ『楽しそう』にするからジン吉が羨ましい。
でも目の前でリア充されるのは腹が立つ。
アルちーに好きになって貰いたいって訳じゃないけど、仲良くはなりたい。
……ん?でもじゃあジン吉はどんな風にアルちーに惚れられたんだ?


「ねぇねぇアルちー」

「まだ何かあるの?僕ジンオウガ探さなきゃ」

「アルちーとジン吉の出逢いってどんな?」

「であい?」


これだけ殆どの事に無関心無干渉なアルちーがどんな経緯でジン吉と出逢ったのかが気になる。
ジン吉が『雷狼竜』だった頃から面識はあったみたいだけど、ジン吉は『雷狼竜』の自分の話はちっともしないんだよなぁ。訊くとすっごい嫌な顔されるし、下手に突っ込むと『龍光纏い』でマジギレするし…どんだけ黒歴史よ。
だからと言ってアルちーに訊いても教えてくれるかどうかなんだけど。
ほら、アルちーって物忘れのレベルを超越したボケが得意だからさ、出逢いの瞬間も忘れてるかもじゃん?
なんてのを考えて返答に然したる期待なんて持っちゃいなかったが、意外な事にアルちーは口を開いた。


「――…神域から出た時」

「え?」

「初めて見たのが『碧玉』だった頃のジンオウガで」

「うん」

「笑いながら色々な事を教えてくれて、『ともだち』って言ってくれて」

「うん」

「怖がらずに一緒に居て、手を握ってくれたから」


だから僕はジンオウガを求めるんだ。

と、アルちーは何処か誇らしげに言った。
いっつも肝心な事も自分の事も記憶から抜け落ちるアルちーにとって、その『思い出』は何よりも大切なんだろうな。だから色褪せずにずっと留まってるんだ。
そんでアルちーにとってはそれだけジン吉は鮮やかな存在なんだ。

……もしその時俺も居たらその『友達』対象になれたんかな。
何だろ、やっぱりジン吉が羨ましいね。偶然でも俺が願うポジションに居られるんだから。
まぁ出遅れたとは言え『そこ』の枠にこれから俺も文字通り仲間入りしようと思ってるのさ!ジン吉とアルちーとキャッキャしたいのさ本当に。
あ、でも念押すけど恋愛感情とか無いから!アルちーの愛重すぎて引く。


「俺も別にアルちーが気味悪いとか思わないし、恐いとかも思わねぇよ。たまにジン吉へのラブにドン引きするけど」

「そう」

「俺アルちーの事は友達だって思ってるし」

「ふぅん」

「俺はアルちー好きだよ」

「へぇ」

「いけずだなぁ。アルちーはどうなのさ…って訊くまでも無いけど……」


さっき「好きじゃない」って真っ向から言われた事を何故掘り返した俺の馬鹿。
見ろよ、このアルちーの超無表情。温度もねぇぞ。俺泣くぞもう。
と、アルちーはその面持ちのまま普通に答え始めた。


「僕は舞雷竜の事好きじゃないよ、でも別に嫌いでもない」

「え? …え、マジで?」

「それなりにどうでも良いけど」

「おっとガード弱い所に突き刺さって来た!!」

「けど、嫌いじゃない」

「何その極端な飴と鞭!! あ、いやでも!何かスゲー前進した気がするぞ俺!!」

「うわ、」


嬉しさの余り俺は思いっきりアルちーに抱き付いた。
若干迷惑そうな声が上がったものの、気にせずにぎゅうぎゅうと引っ付く。人間だったら腕回してる首の骨ボキッと逝っちゃいそうだがそこは古龍の頑丈さだ、柔でブラックな展開にはならない。
意外とアルちーは体温が低いのか、肌はひんやりしていてちょっと寒かった。
いつもこんな感じなんかな?冷え性?
俺よりも少し身長高いから多少背伸びしなきゃならんのがアレなんだがね!
アルちーは特に抱き付き返す事はしなかったけど、まぁ多くは望むまい!!

俺は進歩したぞ!取り合えず『友達』枠に近付いたと考えて良いな!? これから割りと頑張って行ける!


「イェーーイアルちー好きだぜーー!!」

「あっそう」


愛想の無い声色のままだったけど、アルちーも嬉しい筈だと勝手に解釈しておこう。
や、だって、嫌いじゃないんだしね!良いよな!


――…なんて悦に入っている時間は、そう長くはなかった。



「…………何してんだテメェ等気色悪ぃぞ」

「!」

「あ、ジン吉!いや今さー…」

「ジンオウガ!!」

ドンッ!!

「ふぎゃっ!!」


背後から突如声を掛けてきたのはジン吉だ。
どうやら自室で爆睡していたのか、寝癖が跳ねる髪を乱暴に掻きながら鋭い半目でこっちを見ている。微妙に嫌な物を見る様に。
でも今の俺には効かないぜ!と自慢気に振り向こうとした瞬間、俺は物凄い力でアルちーに突き飛ばされた…っつーか吹っ飛ばされた!あの細腕でど偉い衝撃来たよ!!

幸いにも強い尻餅を着く程度で留まったが、結構ケツが痛い…っ。
呻きながらケツを擦り、ジン吉の方へ視線をやると何とまぁ満面の笑みでジン吉の胸にダイブしてるアルちーが目に飛び込んできた。


「んな……っ!!」

「ジンオウガ、寝てたの?」

「あぁ、腹が減ったから起きたんだが…バルカンかラージャン居るか?」

「紅龍や金獅子なんて知らないよ」

「居るかどうか位は把握しとけや」

「僕はジンオウガだけ解ってれば満足だもの」

「うぜぇな…」


甘える様にジン吉に擦り寄り密着するアルちー。ジン吉の顔はめっちゃ面倒臭そうなもんだったけど、引き剥がすのが怠いのか好きにさせてる。
今まで完全『無』だった表情だったのに、このアルちーはもう幸せ絶頂!みたいな、恋してます!みたいな色と感情がありありと浮かんでいる。
古龍じゃない。何かもう猫化してない?猫?


「………っつーかジン吉ぃぃぃいい!!! 今正に俺とアルちーの友情が成立しようとしてたのによぉぉぉ!!!邪魔すんなやぁぁぁあ!!!」

「あ?友情?何だアルバ、ベルと仲良しこよししてたのか?」

「え?舞雷竜と?」


テメェ畜生ジン吉ぃぃぃ!!
ジン吉が来たらあっさりアルちーそっちに行くだろうがぁぁぁぁ!!! 良い感じの雰囲気粉砕必至だろうがボケがぁぁあああ!!!
芽生えかけた友情がへし折れるだろうがぁぁぁ!!!
血の涙を流せそうな勢いで俺が怒鳴り声を叩き付けると、ジン吉やアルちーは特に驚く様子もなくこっちに目を向けた。

いや、しかし!!もしかしたら!!驚愕の展開でアルちーが俺に何か優しくしてくれるかもしれない!!
と、僅かな期待が胸に沸き上がって来た直後、アルちーが打って変わったしれっとした顔で最凶の爆弾を投下した。


「舞雷竜いつから居たの?」

「ぎゃぁぁああああ俺暫く立ち直れねぇぇええええーーーーー!!!!」

「……何のコントしてんだテメェ等…」


壮絶な雷に撃たれた様なダメージが俺に襲い掛かり(主に心の方に)、俺の悲哀に満ちた絶叫は虚しくシュレイド城内に響き渡ったのだった。

………本日も敗北の友情レース。
俺という存在がアルちーの中でジン吉とおんなじ『位置』になるには、どうやらまだまだ時間と根気が必要なようだ…。


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