200万HIT企画

□現実は夢物語よりも奇奇怪怪
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「今日はここらへんで野宿にするか」

『解りました母上!』

『久々の野宿うぇーい、しんどーい』

『野宿ヒャッホーウ!! 闇打ちこいやぁ返り討ちだぜぇ!!』

『えー優等生なぼくはふかふかのベッドが良いんだけどぉ〜』

「リプリス以外は地面の中で寝ろ」

『あらやだー素敵な土葬宣告』


あんなにまで透き通っていた青空が、いつの間にか茜色のグラデーションカーテンを引き始めた夕暮れ時。
今日はここいらで歩く事を止め、明日に向けて早めに野宿の準備をしようと俺は決めた。次の街まではまだそれなりの距離が残ってるし、天候が崩れる気配は無いんで無理をして進み続けなくても良いだろう。というか、あまりずるずると惰性に移動していたらアホな綿毛とウザいマンタが抗議の声を張り上げること間違いなしなんでタイミングとしては無難な筈。

流石に道の真ん中に寝そべる訳にもいかねぇんで周囲を軽く散策し、一晩夜を明かせそうな平地を見つけて俺達は腰を据えた。
簡易型の調理器具を使って適当な調理を実行して夕食を早々と済ませる。途中ワタッコとマンタインがベーコンの取り合いをしてグレッグルに横取りされていたが、飯の時位ちったぁ行儀良く出来ねぇのかテメェ等。激しく煩ぇよ。埋めるぞマジで。
ベーコン争奪戦に敗退したマンタインが俺に次なるベーコンを要求して来たが、俺は静かに奴の頭上に手刀を手加減無く落とす。割れろ頭蓋骨とその構ってちゃん体質。
べっこり凹んだ頭部に泣き叫びながら(それでも死んでねぇとかどういう事だ)、マンタインは今度トゲチックにせがみ始めた。


『リプちゃんリプちゃん!ぼくにベーコン恵んでちょうだいよぉ!』

「おいこらジャミ!テメェリプリスにたかんな!! 争奪戦に負けたんなら大人しく野菜貪ってろ!!!」

『ベーコンはね!ベーコンはねせんせー!! ぼくの明日の活力なんだよぉぉ!! ベーコン食べないとぼくは寡黙になっちゃうんだよぉぉお!!』

「だったら尚更喰うな。ずっとだんまり貫いてろ喋んな。リプリス、その馬鹿にやんなよ」

『い、良いんですよ母上!ジャミさんの方が私よりもお身体おっきいですし…!』

『ほぉらリプちゃんだってこう言ってるじゃないか!ぼくはベーコン食べても良いんだよぉお!』


では早速!とマンタインがトゲチックの皿に盛られたカリカリのベーコンに手を付けようとした瞬間、俺はカイトポケモンの布状の尻尾を掴んで思いっきり振り上げた。
放物線を描いた奴はそのまま遠心力に翻弄され、目的の獲物を得られずに固くて冷てぇ褐色の大地へとハンマーの如く叩き付けられた。ドゴシャアァァン!!!なんていう、全身骨折でもしたような盛大な激突音。波紋状に少し窪んだ地面。衝撃で飛び上がる砂利。物すげぇ聞き苦しい潰れた悲鳴を吐き出したマンタイン。


「―――…あんまし調子付いてんじゃねぇぞ?」

『……す、…すいまえんでひた…』

『…ボスのマンタインハンマースタンプ見たの…俺様は初めてだぜ…聴きに勝りしその威力…!! ボスヤベェ…!!!』

『何が凄いって、ジャミがうっかり本気で謝ったとこよね。ロッさん今兄ちゃんの素敵な表情にめっちゃチビりそう』

『は、は、母上…!ベーコン位だったら私平気ですよ…!! ジャミさん死んじゃいますですよ…!!』

「たかがベーコンされどベーコン、年上甘やかしてんじゃねぇぞリプリス。こういう奴は総じて行動がエスカレートしていくタイプの馬鹿だ」

『躾の為に躊躇なく暴力に訴える兄ちゃんの教育方針に世界の有権者が脱帽するねぇ。ロッさん帽子かぶってないから脱げないけど、その代わりに手を叩いとくよパチパチ』

「地味に嫌だ」


グレッグルと取っ組み合いをしていたワタッコはマンタイン凄惨な末路に紺色の身体を真っ青に染め上げ、毒蛙は相変わらずののんびり口調で場を茶化していた。
トゲチックはマンタインにベーコンをやったらいいのか、それとも俺の言いつけ通りに渡さない方が良いのかで少々テンパっていたが、結局は親である俺の言葉を優先させた。
スッパリ決められない辺りこいつお人好しな性格だよな本当。

撃沈したマンタインが自力で復活するまでの間に夕食を済ませ、俺はテキパキと片付けて今度は寝る準備に取り掛かる。後ろでまたワタッコとグレッグルがぎゃんすか騒いでて非常に喧しかったんで、そこはトゲチックの『かえんほうしゃ』で丁重に沈黙して貰う事にした。(飯の取り分が不公平だったとかグレッグルが肉喰い過ぎで許せねぇとかの内容だったので俺は介入しない。毎回肉類横取りされてねぇかお前?)

マンタインがべそかきながらも蘇生した頃には既に寝床の準備は整っていた。
俺はコートを敷き物、バッグを枕にしてブランケットを被る。


「おいお前等もさっさと寝ろ」

『はいよ〜ん』

『寝るぜ寝るぜ!! 明日も日光浴してやんぜ!!』

『ぶぅ〜…ぼくは繊細だから水の中で眠ったほうが良いんだけどね!しょーがないからせんせーの隣で寝てあげるよぉ!』

「テメェ軽く五メートル位離れて寝てくれジャミ」

『ハブりと苛めは良くないよぉぉ!!』

「うっせぇっての!! 明日の鍋にぶり込むぞテメェ!!!」

『止めてよぉぉ!! ぼくはイイおだししか出ないよぉぉお!!!』

『それ願ったり叶ったりじゃないのジャミぽん』


ぐいぐい迫ってくるマンタインを力尽くで引き離し、適度な距離を保った状態で物理的に寝かせる。俺マジでなんでこんな奴に纏わりつかれてんのか解んねぇ…そんで何で捕獲した俺。
さて一、二を争う程騒がしい馬鹿が気絶した所で俺も落ち着くか、と一息ついた時、トゲチックがもぞもぞとブランケットに潜り込んで俺のすぐ脇に収まった。


「?どうしたリプリス?」

『えへへ、今日は母上にぎゅっぎゅして寝るのです!』

「…俺が寝返り打ったら潰されんぞ…?」

『大丈夫です!私受け止めます!』

「それは幼女が言う台詞じゃねぇし俺が言われる台詞でもねぇ…」

『なんで嬢ちゃんイケメン発言しちゃうのよ。ジェラっちゃうでしょ。じゃあロッさんも兄ちゃんのオフトゥンにお邪魔して…』

「絶対来んなよ毒蛙」

『お預けシステム辛い』


トゲチックは宣言通り俺に抱き付いてすぐ安らかな寝息を立て始める。満足そうと言うか幸せそうと言うか…こんなんでご満悦なら良いんだけどよ。
密着しているトゲチックの頭を軽く撫でてやるとグレッグルが『兄ちゃんオレのヘッドも撫でてよ〜』と言って来たので華麗にシカト。ワタッコは気が付いたら爆睡してやがった。お前は誰よりも寝付き良いよな、全然不良じゃねぇよな。

ふぁ、と欠伸を漏らして俺も瞼を閉じる。
心地の良い闇は滑らかに意識を侵食して俺を夢の中へと落としていった。





―――翌日―――。



「…………」

「…すぅー…」


…え、…あ?

……おい、ちょ、誰か、なぁ、おい。


何で俺の隣に白い着物の白髪幼女がくっついて寝てんのか、説明してくれ。

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