100万hit企画

□浅葱の竜は星を成せず
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『おじちゃーん!』

『おじちゃんあそんであそんで〜!』

『今日もお空とんでよおじちゃん!』

『おじちゃんおじちゃん言うなガキんちょ共!!失礼やな!!わてはまだ若いわ!!』

『わーおじちゃんがおこったーー!!』

『キャーー!!』

『キャーー!!じゃない!
今日こそ説教やい!!』


そんな事を言いながら浅葱色の飛竜は吼えたのだが、リーシャンやハネッコ、ナゾノクサやウパー等の小さな魔獣達は怖れる所か随分と楽しげに笑いながら蜘蛛の子を散らした様にわらわらとあちこちに駆けていく。
からかわれた巨躯の竜・ボーマンダが一番鈍足のウパーの頭をガブリと噛んだものの、噛む力を絶妙に手加減しているし鋭い牙が当たらないようにしっかり配慮しているので噛まれた魔獣の子供に全く痛みはない。
そんな気遣いをちゃんと解っているウパーは相変わらずキャッキャと笑い、逃げた筈のリーシャン達も再びボーマンダの足元に集まってきた。

今や魔獣の住処となった尾張の大きな裏山は、異なる種族が争わずに共存出来るよう考え、趣向を凝らされた独特の地形へと劇的な変化を遂げていた。
生い茂る雑草を切り開拓された広場や、新鮮な水が絶えず循環しサラサラと流れる泉や河。降り注ぐ太陽の光が遮られぬ為に少しばかり葉を落として身軽になった沢山の巨木…取り上げていけばキリがないが、これ等を人間の力のみで完成させようとすれば優に五年以上は掛かるだろう。
そんな重労働と大工事をものの数日でやり遂げた魔獣はやはり偉大で凄まじい存在であると、先日様子を見にきた蘭丸や濃姫は改めて度肝を抜かされた。
人間の生活や仕事に魔獣の協力は欠かせないのだとひねくれた魔獣使いの男は言っていたが、成る程、確かにその意味が理解出来る。
(しかしこの大掛かりな施工を指揮したのはジュカインであったりする。物臭なひねくれ者にそんな知識や工夫力は備えられていなかったし、やろうともしなかったので)

すっかり暮らしやすくなったこの安息の場所を率先して守っているのが、魔獣達のリーダーになっているジュカインと強力な潜在能力を秘めたダークライ。
そして彼等より後に仲間入りした、大空を自由に駆けるボーマンダだ。
幼い魔獣達と比べれば大柄で見た目こそ威圧感や怖さを印象付けてしまいそうなボーマンダだが、彼のパーソナリティがおおらかで明るい物だったので周囲と打ち解けるのはあっという間だった。
コミュニケーション能力が乏しいダークライにすら怒濤に絡んで行くので、かの悪夢は非常に困った空気を出して視線のみでジュカインに救援を出すのはよくある光景だったりする。
やれやれと思いながらも二体の間に入るジュカインだが、ボーマンダの能力の高さはとても頼りになるし彼のお陰で山が一層賑やかになったのは間違いないので咎める事はしない。

わいわいと子供に群がられながらも自身も楽しんでいるボーマンダを少し離れた所でジュカインとダークライが眺める。


『ああやって混ざってると何かアイツも餓鬼っぽく見えるのは言わねぇ方が良いだろうな…』

『……元気だな…ボーマンダ…』

『昨日も散々っ腹飛び回ってハネッコ達の遊び相手してんのに疲れたとか言わなかったし、どんだけパワフルだよアイツ』

『体力が無いよりはあった方が何よりだろう……』

『まぁ、な』

『おぉーーい!ジュカインとダークライも一緒に遊ばんかーーー!?』

『あそぼーよジュカイーン!』

『お兄ちゃんもこっちであそぼー!』

『………どうする?』

『あー、いや、俺はこれから山の見回り行くから遠慮しとくわ。ギャラドス達が造った泉がどうなったかも知りてぇし。
ダークライはどうする?』

『……ジュカインに同行しよう…』

『そんな訳で悪いな、ボーマンダで遊んどけ!』

『ボーマンダ『で』ってどゆこっちゃ!!!』

『『はぁーい!』』

『そんで自分等も返事すんな!!』


ガァ!!と強く咆哮を上げたのだが、やはりハネッコやリーシャンが怯んだ様子は一切ない。
それから飛べない小さな魔獣達はボーマンダの背中に乗り込み、『早く飛んで』とせがみ始める。
我が儘なガキんちょやなと愚痴を溢しながらもボーマンダは自慢の紅い翼を力強く駆動させ、風圧を巻き起こしながら飛翔する。
天へと上昇していく度に姿が遠退く浅葱色の竜を見遣り『落とすなよ』と茶化した声を掛けたジュカインに、ボーマンダは丸太の様に太い尻尾を勢い良く振って返答した。
そしてボーマンダが縦横無尽に滑空するのを確認すると、ジュカインとダークライは揃ってその場を後にした。





強大な攻撃力と頑強な身体が特徴である竜属性。体力が有り余るパワフルさを持ったボーマンダだが、その底無しの馬鹿元気さがたまにちょっとした騒動を引き起こす。

それはジュカイン達が見回りに行ってから暫くした後の事だった。


『テメェボーマンダこの馬鹿野郎が!! 何をどうしてこうなるんだ!!?』

『そ、そんな怒らんといて…!ほんの少ぉぉぉし羽目外しただけでな…!!』

『怪我した奴が出なかっただけ奇跡だが、折角均した広場ぶっ壊す馬鹿が何処に居やがる!!?』

『こ、此処に居ます…!』

『おーおー良く答えられたなぁお馬鹿さんが!!! よし歯ァ喰い縛れぇぇえ!!!』

『『ドラゴンクロー』は止めたってぇぇえええ!!!助けてくれダークライ!!!』

『………………』

『無言で合掌すなぁぁぁーーーー!!!』


そうして辺り一帯に響き渡ったのは地を揺らしかねない轟音と耳を塞ぎたくなる位の絶叫。
予想以上に大きかったその音に山に住む誰もが驚いて身体を跳ね上げさせた。

額に青筋を浮かべ、肩で荒い呼吸を繰り返すジュカインと弱点の攻撃をまともに受けて吹き飛んだボーマンダ、そして飛竜に向かって手を合わせるダークライ。
冷めやらぬ激昂を抱きながらジュカインは次にボーマンダへヘッドロックを喰らわせた。
首を豪腕でギリギリと締め上げられる壮絶な息苦しさと痛みに全力で悶えるボーマンダだが、拘束から脱出出来る気配はない。
『ギブギブ!!』『だが断る!!』の残念なやり取りが聞こえてくるけれど、それからは少しだけ視線を外してダークライは先程までボーマンダと共に遊んでいた子供達に現状の確認の為に訊ねた。


『………ボーマンダが『りゅうせいぐん』が撃てるかどうかを試して…うっかり出したエネルギーが爆散してこうなった…と……』

『う、うん…』

『覚えてない技だし、見よう見真似だからそんなすぐに沢山のエネルギー出ないだろうって言ってたんだけど……!!』

『…………見よう見真似でこれ…か……』

『テメェ『りゅうせいぐん』がどんだけ破壊力あるのか解ってんだろ!!? 物は試しでやるんじゃねぇよ!!』

『だぁぁってぇぇ!!!『りゅうせいぐん』はドラゴンのロマンやーーー!!!』

『ロマン追求は結構だが場所考えやがれぇぇぇ!!!』

『ごめーーーーん!!!』


どうやらジュカインとダークライが去った後、不意に『りゅうせいぐん』は果たして出るのか?と思い付いたボーマンダがチャレンジを始めたそうだ。
煌めきながら流れる星々を見たことがない子供達は『見たい見たい!』と背中を押してしまい、ボーマンダはやらかしたという。
鼓膜が麻痺しそうな程煩い爆発音が上がった時、ジュカイン達は気付いてすっ飛んできた。

『見よう見真似』で此処までの威力を発揮した事を考えたら、ボーマンダの器用さや力の扱い方はかなり優秀だ。何度か繰り返せば完全習得も夢ではない筈…なのだが。

ダークライが周囲を見回す。
動きやすいように雑草が刈られ、平らに整地された皆の憩いの場兼遊び場は至る所が大きく深く落ち窪み無惨な状態になっている。
あちらこちらが焼け焦げ、ぶすぶすと煙が立ち上って『りゅうせいぐん』擬きの名残を見せていた。
余波で何本かの樹にも被害が出ており、樹肌が削れていたり抉れていたりと痛々しい。
………皆が力を合わせて造った広場の惨劇にダークライは目を伏せたが、ジュカインが手加減無しの制裁を与えているので自分が追い討ちをかけるのは止そうと思う。
ただ子供達に『あまり彼を調子に乗らせるな』と釘を刺すことは忘れずに。

予測しなかった展開に驚愕し腰を抜かした小さな魔獣達に傷は無かったが、衝撃的な出来事に泣いている者もちらほら見受けられる。
辛うじてダークライの質問に答えられたリーシャンとハネッコも未だ小刻みに震えているので、精神的ダメージは深そうだ。
――…この状況で子供達がこちらの忠告を聞いてくれるかは何とも微妙な雰囲気である。

ダークライは改めてジュカインとボーマンダに空色の目を向けた。


『テメェがコレ何とかしろよボーマンダァァア!!!』

『ぐぇぇえ…っ! ま、マジで落ちる……!!』

『返事ぃぃぃ!!!』

『はい!! やります!! 喜んでぐぇぇえ!!!』

『………………』


ヘッドロック継続中のボーマンダはビタンビタンと尻尾を地面に叩き付けて『離してくれ』と訴えているが、ジュカインが応じる筈もない。
頭に血が上り暴走するジュカインは、ああなるとなかなか止まらないという事をよく理解しているダークライ。
そろそろ止めないと本気でボーマンダの意識がぶっ飛んでしまうので、ダークライは相棒の気を鎮めようと静かに動きだしたのだった。

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