雑多
□追想ノ華
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いつの日かこんな夢を見たことがあった。
幼い私が、同じ年の男のコと一緒に迷いの森の中を転びかけながらかけっこをしている夢。
男のコの顔は思い出せないけど、そのコは私と同じ金髪をしていたのだけは覚えている。
私とそのコの服装は、せっかく質の良い布なのに砂で汚れていた。おそらく海岸で遊んだ帰りだろう。
私はフと立ち止まると、足下近くに咲いていた可憐な野花を見つめた。
『リリアンヌぅ?』
『ねぇ見て見て!かわいいお花!』
男のコが近づくと、私は黄色い花を指差す。
『かわいいでしょ?これ、持って帰ってろうよ!』
『でも、お部屋に飾ったらバレちゃうよ?「この花どうしたの?」って』
『うっ・・・かわいいのに〜!』
ジダンダを踏む私を、男のコは困ったような顔で見る。
さんざん不機嫌な声をあげた後、私はパッと嬉しそうに表情を変えた。
『飾らないで押し花にするってどう?そしたらずっと残るわ!』
私は返事も待たずに野花を摘み始めた。なるべく大きくてキレイな花を選びながら、夢中に。
『2人分を作るの!あなたにもお揃いのをあげるね!』
男のコはきょとんとした後、にっこりと笑った。
夕日に照らされた金髪がキラキラしていてとても美しかった。
『楽しみに待っててね!アレクシル!!』
その夢を不思議だと気にかかったのは当時だけ。
結局おやつのブリオッシュで忘れてしまったけれど。
思い出すことなんてないって、思うことすらなかった。
ではなぜ、今それを思い出したのか?
アレンの服のポケットに、入っていたもの。それが、夢に出てきた花とそっくりだったから。
あの夢の男のコは、アレンだったの・・・?
もう戻れない王宮の屋根を眺めながら、郊外の路地裏で、シワ1つない紙の上に雫が零れた。
End