雑多

□ミザリーペッパーライフ
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「きっと光はあるよ」

あの夜、ほんの一筋の光を見た気がした。

月を閉ざされた暗闇の中で、希望を祈るしかできなかった。

その光は、月とは程遠い、例えるなら蝋燭の光のようなもの。
これを頼りに歩くにはあまりに小さくて、足元さえ確認できない。その上、風があればすぐに消えてしまう。

月のようにオレたちを照らしてはくれない。
陽だまりのようにオレたちを暖めてはくれない。




この光を知った時、オレは、これまでとは別の世界をみえた気がした。

青空の下、賑わう街の中であなたが手を振っている。
急いで駆け寄ったオレを見て、呆れたように笑っている。
そして、どちらともなく手を握り、二人で街を歩いていく。

汚いものばかりを映してきたオレの瞳が、あなたを中心に美しいものをとらえていく。
全てが鮮やかに色づいていく。

それはきっと、今まで願い祈ってきた幸せとは違う。

きっと…………。




理解できないもののはずだった。想像もできないもののはずだった。
オレにとっての幸せはたった一つ、家族との生活だけだった。



しょうこさん。



あなたが、オレに別の幸せの道を教えてくれたのかもしれない。

この囁かで儚い光を、すぐに消えてしまいそうな光を、オレは守っていきたいと思った。



…思いたかった。





あなたを拒んだのは、オレの意地でしかなかったのかもしれない。




月は、もうオレたちを照らしてはくれない。
月はオレたちを拒む。オレでは朝陽の輝きにはなれない。

光を信じた先に辿りつた月は、どこまでも闇で覆われた、果てしない砂と岩の塊になってしまった。




しょうこさん、

皮肉にもあの男の言うとおりでした。
結局オレは弱いまま、変わることなく、全部なくしてしまったのです。

しおも、母さんも、……あなたも。


もしも、あなたを励まさなければ。
もしも、オレが別の幸せを――あなたとの幸せを選ぶことができたら。



あなたの光は、オレの傍にありましたか?

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