雑多

□ペア券1つ
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―――ドン。

その時、曲がり角の途中で何かに激突した。
普段ならこんな不注意はしないのに、バネッサがペア券なんか寄越してくるからこんな不注意になるんだ。余計なことばかり考えちまうじゃねーか。

でもまぁ、ぶつかったのは明らかにオレが悪い。相手に謝らなければな。





「あ、悪かっ・・・」



「大丈夫?考え事?」



「・・・ッ!!?」





マジか・・・マジかよ・・・。

目の前の女子は変わらない澄まし顔でこちらを見ている。

オレがぶつかったのは、紛れもなく今思考内を占領しつつある仙道キヨカそのものだった。


一体なんでこんなところに・・・いや、そりゃいるわな。おんなじ島で、おんなじ街で、おんなじ学校にいるわけだし。それにしたって偶然が過ぎないか神様。
つーかまだ心の準備できてねーよなんだよこの仙道キヨカが勝負を仕掛けてきた状況やめてくれオレはまだ回復してないんだ!

と、とりあえず謝れオレ!

「あ、ああ、そうなんだ。悪かった。そっちは?」
「大丈夫」
「そ、そっか・・・」
「じゃあ」

「あ、ちょっ!待った!!」

そんな気なかったのに。慌ててオレは、過ぎ去ろうとした彼女の腕を、掴んでいた。
紫色の髪から、花のような香りが花を掠めた。
息を飲む。


「あっあの!あの!」
「?」


―――言うか?言っちまうか?

ここにはオレたち以外誰もいない。絶好のチャンスだ。

言え!!




「っこれ!や、やる!!」



・・・うわ。
なんだこのチョコを渡すバレンタインの乙女。
下向いて前ならえで手渡すとか馬鹿だろオレ!めっちゃ恥ずかしい!

なのに、顔を上げることができない。こんな顔見せられない。キヨカがどんな顔をしているのか、柄になく怖い。


「―――あっ。キヨカー!」

不意に向こうから駆け寄ってくるものに驚いたオレは、反射的に姿勢を整えて背を向けた。

顔を見られるのは嫌だが、端から乙女な手渡しかたをしている光景など見られるのはもっと無理だ。

「ユノ」
「あれ?そのチケットどうしたの?」

どくんと刹那、血液が逆流した。キヨカの指に挟まれたペア券を背中で感じとる。

さっきまで人様に何か言われるのが嫌だったが、今は・・・


キヨカはこれ、どう思っただろう?


受け取ってくれたってことは―――・・・!





「ちょうど良かった。今彼からこの券をもらったの。一緒に行こう、ユノ」



「・・・え」
「うわぁいいの!?行く行く!私これ観たかったんだぁ!!」

「え、いやその」
「カゲトくんありがとう〜!めちゃくちゃ嬉しい!」
「う゛・・・」
「ありがとう。じゃあまたね」
「あ・・・」


いつも通りの顔に少しだけ笑みを浮かべたキヨカと、ものすごいテンションのユノが去っていくのを、オレはただなすすべなく見送った。



「こんな馬鹿なことって・・・!」

せっかく、せっかく2人で行ってもいいなって思い始めていたのに。

過ぎる風は極寒のブリザードの如く吹き抜けたのだった―――。




























「そういえば、なんで自分で使わなかったんだろうね?」

―――ピッ。

「“恋人”の逆位置。進展しない問題。先に進めない」

「どういうこと?」
「さあ?」



End
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