雑多

□ペア券1つ
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バネッサに差し出された紙切れの意味を、最初は理解できなかった。

「今日から公開の話題の新作映画が観れるペア無料招待券をミハエルからもらったんだけど、キャサリンたちとガールズトークしたりとか、服を買いにいったりと、とにかくアタシは忙しいくて行けなんだよ。あ、ミハエルはハルキと一緒にアラタに勉強教えるらしい。えーっとそれから、ムラクはほら、映画とか似合いそうにないし、ファンタジーってカンジじゃないだろ?だからさぁカゲト、お前他のメカニック誘ってこれ行って来なって!ああでも、サクヤとか男子面子は新しい機器を作る相談をするらしいからなぁ。あこれ秘密だし、この時いなかったから、カゲトは知らなかったよな。しかしこれじゃあカゲトと一緒に映画を観れる人なんていないも同然。・・・いや、確かもう1人、そうあと1人だけ、カゲトと交流のあるやつが―――いたいた!仙道キヨカだ。あいつがいた!仕方ないなぁ、キヨカを誘ったらどうだ?カゲト?」

長ったらしい言葉をつらつらと語り続けたバネッサは、オレの手にペア券を押しつけるようにして・・・いや、捩じ込ませるようにして握らせた。

わざとらしく1人で勝手に話していたが、結局は一番言いたいことは最後の「仙道キヨカと映画に行ってこい」ってところだけだろう。
こんなにも知り合いほとんどが都合の悪いわけがない。

「・・・とりあえずバネッサがそんな女らしい趣味の用事があるとは思えねんだけど」
「しっ失礼なやつ!アタシだってな!」
「ブラウンマスタングとか言われたりしてな」
「〜うるさいっ!!」

褐色の拳が思い切り顎にぶつかった。いてぇ。

「いいからキヨカと行け!いいな!?」

茶色い暴れ馬は女らしからぬがに股響かせ去っていった。

「ったく・・・」

殴り付けられた顎を擦りながら、手の中のチケットを見る。

仙道キヨカとムラクさんの新しいLBX作りをしてから、何かと小隊メンバー(とくにバネッサ)にからかわれるようになった。

あげくこのペア券である。
どうせ後にデートだなんだの騒いでまたからかわれるに決まってる。

仙道キヨカには手伝ってもらった借りがある。そのお礼ということにしておけば、映画に行くくらいなんとかなる。
が・・・。

「絶対これ、ラブ要素あるよな・・・」

チケットに写っている男女は、いとおしむように見つめあって手を握っている。
こんな恋愛ムードなチケットをもし仙道キヨカに渡してみろ。バネッサどころかキャサリン・ルースたちにまで生暖かい目で見られるんだろう。

想像するだけで鬱陶しい。ワタルが5人いるより厄介だ。

「・・・でもなぁ・・・」


例えば、例えばだが、仙道キヨカとこの映画を観に行ったとする。
Lサイズのポップコーンを買うのはまぁ、定番だろう。味は塩味、いや女だしキャラメルを好むかもしれない。
たぶん、上映中もいつもと変わらない表情で真剣に観ているのだろう。オレは、つまらなかったら寝てしまうかも。でもあいつならそんなこと気にしないでくれっかな。
終わったらそれでサヨナラっていうのもなんか変だし、その後どこかでお茶でもするのが妥当だろう。・・・となるといつものあそこか。オレと仙道キヨカはどんな話をするだろか。やっぱメカニックとして新機種についてとか、そういうのになるんだろうな、きっと。でも、たまには別の話もしてみたい。何が好きとか、好きな食べ物とか、好きな授業とか、―――好きなタイプ・・・とか?

いや、最後のは別に、一般的な会話としてなっ。


「・・・」

これは礼だ。手伝いの礼。礼をするのは人として当然のことだから、そういうことならこの映画には誘わざるを得ない。

道徳なのだから、仕方ない。
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