雑多

□それはまだ仄かな恋慕
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ワタシと彼女の出会いは、よくある春の入学式のこと。
引っ込み思案なワタシは誰に声をかけることもできず、独り机に座り込んでじっとしているだけだった。

「初めまして!ワタシの名前は本藤宮美!今年1年よろしくね!」

そんなワタシに優しく肩をたたいて声をかけてくれたのは彼女だった。

「わ、わ、ワタシは、えと、加々美莉乃、です、こんにち・・・おはよう!」
「うん、おはよう!」

宮美ちゃんは口下手なワタシの変な返事にもげんなりとせず、普通のことのように返してくれた。

「ところでねぇ、加々美さんのバッグについてるそれってたこルカでしょ?たこルカ好きなの?」
「う、うん・・・」
「やっぱり!?ワタシもたこルカ大好き!にょろにょろかわいいんだよねー!他にはどんなのが好きなの?アイドルとか」
「ア、アイドルは、初音ミクとか・・・CDとかも買ったりする、よ?」
「初音ミク!ワタシも好きだよ。新曲聴いた?超キラキラしてるの!」
「う、うん。すごく、かわいいよね」
「うんうん!」

ワタシと宮美ちゃんは性格が正反対なのに、不思議なくらい意気投合した。


「莉乃!お弁当食べよう!」

それからあっという間に夏が来て―――。
その時には、ワタシたちは完全に“親友”になっていた。2人でプリクラを撮ったり、カフェで話し込んだり、お互いの家にも行ったね。
宮美ちゃんは誰からもかわいくて、好かれる人気者。それなのにいつもこんな地味なワタシの側にいてくれた。それが理解できなくて、一度だけ宮美ちゃんに訊ねてみた。
そしたら・・・

「莉乃といる時が一番楽しくてほかほかするからだよ。莉乃ほど気の合う友達は他にいないし。莉乃にだったらペラペラなんっでも話せるの!それにね、莉乃だってすごくかわいいよ。髪なんかふわふわで、いっつもキレイだなって思うんだー」

ワタシはすごく、すごく嬉しかった。宮美ちゃんがワタシを大切にしてくれていること。コンプレックスだったクセッ毛を褒めてくれたこと。
ワタシの心の一番奥で輝く宝物―――。

「莉乃、ずっと、ずーっと友達でいようね!」
「宮美ちゃん・・・うん・・・うんっ」


たぶん、この頃にはすでに、ワタシは宮美ちゃんに友達以上の感情を抱いていたんだと思う。

ワタシと宮美ちゃんはいつでも一緒で、2人で大好きって言い合える時が一番幸せだった。

それが当たり前だと思ってたんだ。

これからもずっと続くって。


「もう遅いし、帰ろうか。行こう莉乃!」
「うん!」

宮美ちゃんが差し出した手を、ワタシは握り返した。

少し火照る顔と、高鳴る鼓動を感じながら。


そんなワタシの幸せがそう時間がかかる前に崩れ、後にあんなことを引き起こすことになろうとは思いもしなかった。

End
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