Evolvulus

□兄とでかける電車道
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桜谷駅までは電車一本。急行に乗れば30分もかからないで行ける。

「来月合唱コンクールじゃん」
「そうね。来週はうちらの学年の予行練習」
「調子どう?」
「うちのD組は去年の優勝選曲だし、気合入ってるわよ」
「だろうね。…あーあ、うちのクラスも狙ってた曲だったんだけどなぁ」
「しょうがないでしょ。じゃんけんで負けたんだから。ね、B組の合唱コンクール委員さん」
「うぅっ」

満席の列車の中吊革につかまりながら、適当な雑談をしたり、窓の外の景色でも眺めたりして過ごした。


途中の停車駅で、目の前の座席が空いたことがあった。

「楓座りなよ」
「陸斗が座れば?」
「いいから」

そこまで言われてしまったら腰掛けるわけにはいかない。すると入れ違う形で私の隣の人が立ち上がり、陸斗に向かってこう言った。

「どうぞ」
「え?」

私たちより年上そうな若い女の人が、どうしてか陸斗に席を譲ってくれようとしているらしかった。

「いえっそんなお構い無く」
「次降りるので大丈夫です。気にせず彼女さんの隣に座って」
「はい!?」

(双子なんですけど!?)

その人はさっさと出口の前まで行ってしまったので、説明する暇はなかった。

陸斗が仕方なし気に開いた隣に腰掛ける。回りにそう思われているんだ感じた今、隣に座られるのは心地いいものではなかった。


まぁでも、学校でも外部から入学してきた人の中からは、そんな思い込みを受けることはよくあった。

そういうの、本当に勘弁してほしいんだけど。


「…俺たち似てないんだね」
「今さらでしょ」

恋人って勘違いされたのがよほどショックだったのか、あからさまに声が沈んでいる陸斗。

その後、桜谷に着くまで一言も会話ができなかった。



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