Evolvulus
□それでも、泣いてしまうんだよ
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僕の誕生日はバレンタインデーの次の日である15日。
僕はこの日15歳を迎えることになった。
少しゴロは良いけれど、良いことといえばそれくらいで、他はちっとも良いとは言えない。
僕の体は朝から熱っぽく、朝ごはんは半分も食べきれず戻してしまった。
おまけに外は大雨。
「…そうですか。草ちゃん、せっかくの誕生日なのに」
玄関まで迎えに来てくれた梨愛の声が、残念そうに沈んでいる。
そして二言三言ほど母と会話を交わしながら、そっと去っていった。
眩暈に耐えながら上半身を起こし、窓の向こうの梨愛を見送る。
水色のチェック模様の傘から梨愛の下半身がはみ出ている。
寒そうに内股気味に歩くその姿に、どうしようもなく申し訳なさを感じた。
「草太。今年も梨愛ちゃんが来てくれたよ。『誕生日おめでとう、それからお大事に』って」
「…うん。聞こえてた」
寒気に耐えられなくなって、もう一度ベッドに横たわる。
部屋のドアの向こうで、母は病院の開く時間とかを続けて話していたが、朦朧とした意識の中ではただの音として耳をすり抜けていった。
夢の中で僕は梨愛に謝った。
ごめんね、せっかく迎えに来てくれたのに。
梨愛は今日のこの日になると、毎年朝から僕のもとに訪れて、真っ先に誕生日を祝ってくれていた。
学校がある時はそのまま一緒に登校し、学校がない時は家に上げて遊んだりして。
それがいつも嬉しくて、楽しみにしていたのに。
僕も残念だよ。
ごめんね、梨愛…。
雨の中、車で病院に連れられて、薬をもらって。
熱はまだ下がらないけど、吐き気は今のところ落ち着いている。
もう、夕方だろうか?
雨が日の短さに拍車をかけて、時間が体感できない。
時計を見ると、18時を過ぎたころだった。
――コンコン。
静かな部屋にドアのノック音が響いた。
「草太、梨愛ちゃんがまた来てくれたの」
「…梨愛が?」
「草ちゃん、大丈夫?」
「え?梨愛!?」
僕は驚いて、すぐに起き上がろうとした。が、眩暈にやられて倒れこんでしまった。
来てくれたとは聞いたが、部屋の前に梨愛がいるとまでは思わなかったのだ。
体調が悪いせいで情緒が不安定なのも関係しているんだろうか。つい大げさに取り乱してしまった。
「やっぱり直接草ちゃんをお祝いしたくて来ちゃった。うつると草ちゃん責任感じそうだから、部屋の中にまでは入らないけど」
「責任って…た、確かにそうかも」
「でしょ?草ちゃんはなんでも自分が悪いって思いがちなんだもん」
クスクスと笑い声が、心地よく耳に届く。
不安定な情緒のまま、わけもわからず涙が溢れた。
「あ、あのね。ゼリー持ってきたんだよ。駅ビルにあったゼリーとプリンの専門店行ってきたの」
「駅ビル…て梨愛の家と反対方向じゃない?」
「そんなのいいの。せっかく誕生日なんだから、少しはぜいたくなもの食べれなくっちゃ!」
「ふふ…」
「…草ちゃん?」
「ありがとう…」
言葉尻は震えてしまって、たぶんちゃんと言えていない。
僕を大事に思ってくれている友達がいることが、ただただ嬉しい。
こんなに嬉しい気持ちを、僕ばかりもらっていいんだろうか。
僕だって、梨愛に同じ気持ちをあげられたらいいのに。
「泣いてるの?駄目だよ。せっかく誕生日なんだから」
それでも、泣いてしまうんだよ。嬉しいから。