イナズマイレブン
□狐と狸は恋敵
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時は林間学校。
緒萌賀学園2年生の一行が某キャンプ場で宿泊し始め、早2泊目。
3泊4日のちょうど真ん中を彩る今宵のイベントは大目玉の肝試し大会だ。
生徒たちが怯えたり楽しんだり、様々な面持ちで待機している中、4組のクラス委員長・ベータは期待と緊張で胸を高鳴らせながら列に並んでいた。
肝試しは男女無関係のペアをくじ引きで選ぶ形式だ。
望むにしても確率はあまりに低いが、それでも理想を思わずにはいられないのが乙女心である。
ベータの望みはもちろん、アルファとペアになることだ。
くじ引きのペアとなれば、さすがにあの親衛隊たちも邪魔はできない。
義務的に2人きりで夜の森を進むことになる。つまりチャンスだらけになるのである。
普段まともに口を聞けないアルファと話をすることができるし、暗闇やオバケで女らしさのアピールもできる。
男女の親密度も薄暗い方が上がる、という本の言うことを信じれば、アルファに惚れさせることも可能・・・!?
そんな打算という名の妄想を胸に、今日まで雑誌に聞いた胡散臭いおまじないに願いをかけてみたりもしたものだ。
しかし、神様はそんな乙女の健気な願いを聞いてくれる暇はないらしい。
むしろ神様は人に嫌がらせをするのに大忙しだ。
「なんであなたがペアなんですの?」
「奇遇ですね私も不満です」
ベータの肝試しペアは、あの憎きアルファ親衛隊長、エイナムだったのだ。
おかげさまでベータもエイナムも大迷惑である。
ベータが(そしておそらくエイナムも)お目当てにしていたアルファは、トイレにでも行っているのか見当たらない。
親衛隊員たちに注意を払っていたが、
レイザはオルカとペアになっているし、
ザノウとガウラは偶然にも一緒。
クオースは別の子と今しがた別の誰かと番を迎えているのを見た。
「(ま、あの人たちがアルファと一緒じゃないだけ安心かしら)」
自分の方も、ガンマよりはマシな方なのかもしれない、と思い直すことにした。
ただ自分を弄るだけが目的のガンマに比べたら、
エイナムはアルファを執拗にガードするだけ。ベータに危害を加える気はないからだ。
とはいえ、互いに互いを敵視しているのは本当のことである。
よって2人が仲良く森をさ迷うことなどあるはずもなく、お互い一言も話をせず足早に突き進むだけとなった。
そう、それはそれは足早に。
―――ガサガサ
しかし、数分進めば簡単に終わりを告げられた。
その微かな物音を境に・・・。
「ッキャアアアアア!!!」
「イヤァアアアアアアアア!!!」
目の前を水が飛び散り、絶叫したエイナムにつられてベータも悲鳴を上げた。
ベータが即座に気を取り直しエイナムを見ると、同じくエイナムもこちらを向いた瞬間だった。
「こ、この程度で怖いのか?」
「あなたこそっ、女の子みたいな声出しちゃって!」
実はこの2人、オバケが大の苦手なのだ。しかしお互いの立場上そんなこと、たとえ自分が幽霊になっても言えるはずがない。
「しょーがないですわねぇ。怖がりなエイナムちゃんのために、しりとり相手になって差し上げてもよろしくてよ?」
「しりとり?随分幼稚な遊びを考えますねー、相当気が動転しているらしい」
冷や汗を握り拳に隠し、再び足早に歩き出す。
さっきよりさらに早く。
横切ったものの正体が仕掛けのコンニャクであることを、彼らは考える余裕もない。