雑多

□“王子様”は渡さない
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鹿島に告ろうとしてる男子がいるらしい。


と、今鹿島本人から聞いた。

「なんでそれを本人が知ってるんだ?」
「なんでって、だってそれ、御子柴ですし」

見てればわかりますよ!と鹿島がケラケラ笑う。

確かに、マミ―――基、御子柴は正直妙にわかりやすい。多分本人は全然気づいてはいないが、何かある時してほしい時はいつもソワソワしたり、じっとこちらを観察していたりと、“何かある”アピールは無意識にもビシビシ送りつけてくる。

確かにわかりやすい。だが―――、

「そりゃいくらなんでも自意識過剰なんじゃねぇか?」
「えぇ、そんなことないですって!」
「好きかも、とか、気があるんじゃないか、とかよ、そういう抽象的なのだったら想像つくけどよ・・・」

わかりやすい反面、かなりの照れ屋でもある御子柴。
好意をふわふわ匂わせるのは得意そうだとは思うが、いくらなんでも『告白しにくる』ってのはちょっと・・・行動力がありすぎる。

「堀先輩、どんだけ御子柴のこと小心者だと思ってるんですか?」
「実際小心者じゃんかよ」
「まーですけど、ちょっと甘く見すぎですよ。あれでも頑張り屋ですよ?」

それもよくわかる。前に芝居の代役やってもらった時も随分やってくれてたからな。練習1日しただけだったけど。

「そんなに信じられませんか?」
「そりゃー、なぁ・・・」
「―――じゃあ堀先輩、」

鹿島は声を縮めて、綺麗な顔を耳に寄せる。
その際見えた夕焼けの光が貫くように眩しい。部活帰りの校舎は電球色の蛍光灯の下にいるように、薄暗くぼんやりオレンジに染まっていた。一旦外に出ると、それがぐっと明るくなって、街全体がスポットライトの中にあるようだ。



鹿島の耳打ちは、御子柴が校門前で待ち伏せているだろうから、どこかに隠れていろ、というものだった。
どうも鹿島は自分の言っていることが真実であると証明したいらしい。

でもそれ、仮に本当なら人の告白を覗き見ることになるんじゃねぇか?

・・・とは思ったのだが。どうしてもという鹿島の願いと、俺自信微妙に興味があったので、結局垣根に隠れている形になった。

「あれ、御子柴じゃん。何してんの?」
「よ、よう・・・」

鹿島の言う通り、確かに校門には御子柴がいた。
さすがヒロインと言えるソワソワした桃色ほっぺの御子柴と、まるでそこにいるとは知らなかったかのような素振りをする鹿島が対峙する。

御子柴のその顔色を除いても、ぎゅっと握り締めた拳だとか、微かに震えた肩だとか、めちゃくちゃに泳ぎ回る瞳だとか、それらを見ていたら少しは信じても・・・なんて思い始めてしまう。

「あ、あのさ・・・鹿島」
「ん?」

ごくん、微かに聞こえた喉の主は御子柴で当たっているだろう。

まさか、本当に、本気なのか?

あの御子柴が、本当に告白なのか!?



「―――例えお前が人でなくても、脚のない海の民だとしても、俺は構わない。歩けないのなら、俺が海まで迎えに行くさ。泡になるなよ、俺の人魚姫。お姫様は、王子様を待つもんだぜ?」



今、目に見えないが御子柴と鹿島周辺にバラが見えた気がする。御子柴が鈴木の周りに描くような、溢れるばかりの大輪の花々のような、要するに幻覚が見えた。

今のが告白?

いや告白っつーか口説いてんじゃねーか!
しかもあんまかっこよくねーしズレてやがる!

飛び出していろいろツッコミたい俺が、実際にその衝動に駆られる前に、御子柴の顔を鹿島の指が包み込む。

ぐっと近づいた距離は、御子柴に雷を撃つ。見ているこっちもドキッとするような、ムードある少女漫画の1コマが目の前にはあった。


「怖がりな君、強がりはおよし。私が手を握っててあげる。側にいるよ、グレーテル」


『人魚姫』を『ヘンゼルとグレーテル』で返しただと!!?

なんだこの口説き合戦は。こんなんでよく告白されるなんて言えたな鹿島ァ!!



「っう、うわぁああばーか!鹿島のばーか!ばーかばーかぁあああ!!!」

御子柴は突然鹿島を突き飛ばし、真っ赤な顔を目一杯振り乱して、一目散に逃げていった。


「ふぅ・・・あ、もう出てきていいですよー」

後に残ったのは、呑気な鹿島の間延び声。
俺は気力を無くしたようで、爺さんのように膝を手摺にしながら立ち上がった。

「あれ・・・あの人魚姫みたいなやつ。告白・・・なのか?」
「あれじゃなきゃどこに告白があるんですか!?」

まあ、な。あれくらいしか会話してないもんな。

「やっぱりお前の勘違いじゃないのか?」
「まだそんなこと言って!本当に本当ですってば!」
「えー」
「あいつから告白するって言ってるんだから、そうなんですってば!」
「それを早く言えよ!」

気力がどうとか言っていられない発言が聞こえた。これはもうツッコまずしてどうするよ。

「ちょ、待て。詳しく説明してくれ。とりあえず1から」
「んー、1ヶ月くらい前だったかな・・・」



どうもその時に、御子柴は意味ありげに質問してきたらしい。その内容が「好きなヤツはいるのか?」というのに近いものだったので、ピンと来た鹿島が、自分を好いているのかと訊ね返したのだ。
案の定、御子柴は全身染まる勢いで紅潮し、否定もろくにままならなかったよう。



「しかし、あの御子柴があんなこと言ったのには驚きましたよ」

鹿島が空の向こう側を見やって続けた。



とりあえずここは笑ってと、鹿島が言葉を紡ぐのを御子柴は制止した。静止して、真っ赤な顔のまま言ったのだそうだ。「自分からちゃんと告白する。告白してお前を落としてみせる」って。

「それから御子柴は、隙を見ては幾度となく私をコロッとさせにかかって来るってわけです」
「ってことは、幾度となく御子柴の告白(?)を跳ね返しているってことか」

あの口説きが、御子柴にとって鹿島へのアタックだとしたら、鹿島の返し方は冗談やはぐらかしに見えることだろう。
何より、こちらに振り向いてもらえないという結果であるのだから。

「御子柴の気持ちは素直に嬉しいと思ってますよ。恋人になってもいいかな〜とも考えてます」
「あ?じゃあ、なんで?」
「ほら、私はお姫様より、やっぱり王子様でしょ?」


・・・なんだ、やっぱりコイツ女だから、そういうの気にしてんだな。「自分みたいな男役が男の子と付き合ったりして、何か言われたら・・・」とか、そのあたりか?ここはコイツの先輩として、後押ししてやらn

「私は恋人相手だって、王子様でいたいんです!それに御子柴、自分のこと王子みたいに言ってましたけど、どう考えてもお姫様でしょう?」

だから、御子柴が姫に落ち着いてくれないと。

なんて爽やかに笑う鹿島の表情が、少しだけ寒かった。


End

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