雑多

□シュガーメイド・パール
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カグラとミリアーナは今日も仲良し。


いつものように、戦闘に備え稽古に励む。

復讐はやめたはずなのだが、すっかり稽古が日課になってしまったのだから仕方がない。

それに、誰かのために強くなりたいその気持ちは、今も昔も変わらない。

「良い。今日はここまで」
「はぁ〜、お疲れカグラちゃん」

言うが早いか、ヘタリと地べたに座り込むミリアーナ。

早朝に始めた稽古だったが、気がついたらもう昼。カグラの鍛えはためになるがとても厳しい。


「あ!ねぇねぇカグラちゃん。一緒にお昼食べようよ。なんか近くにできたカフェが美味しいらしいよ〜、行こう行こう!」

まばたき前の元気のなさはどこへやら、ミリアーナは猫じゃらしを目前にした仔猫のように沸き上がった。

相変わらずだな、とカグラは半ば呆れながらも、新しいカフェの味に興味を抱いていた。

「ふむ、・・・行ってみるのも良いだろう」
「やったー!カグラちゃんとご飯!」
「お、おい、くっつくな!」

カグラは慌ててミリアーナの額を押し返すも、決して引かれることはない。
むしろ腕にガッチリ巻きついている。頬を撫でる茶髪がムズ痒くて縮こまった。

「〜っいい加減止さぬか!歩きづらい!」
「・・・にゃ〜」

ようやくミリアーナを振り払い、カグラは先行を進み出す。重力変化の魔法でも加わっているかと思える歩調だ。

ミリアーナも拗ねた表情を見せながら、渋々後をついてきた。



「ねーカグラちゃん見て。この花、超可愛いよ」

指を差された名も知らぬ花。
街に飾られた小さな土の箱から慎ましく生えているそれは、林檎の切り口のような瑞々しい金白色の可憐な花だった。
プランターから丁寧に2列にならんでまっすぐなラインを描いては、一輪一輪の品性をアピールしていた。

「なんかこの花、カグラちゃんに似てるね」
「・・・そうか?」
「うん。ほら、カグラちゃんのリボンの色とー、カグラちゃんの瞳の色を混ぜたら、きっとこんな色じゃないかなぁ」
「私のリボンと瞳の色・・・?」

色を混ぜるという発想がなかったカグラはミリアーナの発想に驚いた。

確かに自分の瞳の色、そしてリボンの色を絵の具と考えて混ぜてしまえば、そんな花の色になる。と、思えなくもない。

などと考えていると、目の端をふわり過る淡い光。


「ほら、そっくり!」
「!」
「うーんいや、“そっくり”じゃなくて“似合う”だったな」

すぐ側で、ミリアーナが歯を見せて笑った。

カグラの黒髪に花を添えた手は、手袋越しなのにほんわり温かい。

「カグラちゃん、真っ赤?」

すり、と滑られた手の感覚に、また1段と頬が熱くなるのを感じた。

「にゃあ、可愛い」



はっとした。


ミリアーナが、

ものすごく近い。


指で茶髪の髪を弾く。
目の前の猫娘は、しっぽを踏まれた猫のような悲鳴を上げて離れた。

「ニャ〜、痛いよカグラちゃぁん・・・」
「植えられた花をむやみに摘み取るんじゃないっ」
「むー・・・」

髪に差された花弁をそっと、土の上に寝かせてやる。
今はまだ元気だが、そのうち萎れて土に還るだろう。その時期を早めてしまったが。

ミリアーナはまた膨れっ面になっていた。カグラが戻ると、じっとりと恨めしそうに睨んできた。

「・・・なんだ?」
「カグラちゃん、私のこと、どう思ってるの?」
「どっ」

予期せぬ発言に、カグラは固まる。
はぐらかそうにも、真剣なミリアーナには通じないだろう。そもそも真面目なカグラには上手い言い訳など思いつかなかった。

「ねぇ、カグラちゃん。ねぇってば」

ちゃんと答えて。

ミリアーナの顔にはハッキリとそう書いてある。

「そんなこと言われても、だな・・・」

冷めたばかりの頬が、また火照りだした。

逃げ道など与えてはくれないのだろう。



「・・・っ」


どれほどそうしていただろう。

それは1分のような気がするし、何十分も立ち尽くしていたような気さえする。



長いため息の後、カグラはミリアーナの手を引き歩き出した。

「・・・行くぞ。腹が減った」
「えっ?」
「道はどっちだ?」
「ちょっと待ってよ。私今大事な話―――!」




頬に触れたカグラの唇が、ミリアーナの言葉を止めさせた。


まばたきをしたら見落としてそうな、そんな一瞬のことだったけれど。



「カグラちゃん・・・!」

色々な感情が入り交じった顔で、ミリアーナが目を見開く。
カグラは赤く頬を染めうつむいた。

「これじゃ、駄目か?」
「・・・」
「ミリアーナ?」
「駄目」

面食らって顔を上げると、どんっとぶつかる衝撃に丸め込まれた。

ミリアーナの尻尾がゆらゆらと曲がりくねっているのが見える。

「でもしょーがないなぁ〜。今日は許してあげる♪」

見えないが、声の調子と尻尾でミリアーナが笑っているのがわかった。

カグラも口元に笑みを浮かべ、彼女の黒いローブに腕を回した。


全身が熱いのに、2人分の鼓動が重なってますます熱は上がっていく。

でも、不思議と嫌ではなかった。


「元気最強〜!!じゃあカグラちゃん。早くカフェ行こう。お腹ペコペコだよぉ、にゃぁ」
「私は最初からそのつもりでいたぞ」
「デザートも食べようね」
「ああ」
「“あ〜ん”しようね」
「あ―――あっ!??」
「わぁい決まった!よし、手繋いで行こうねー」
「おぉおおい待てっ!!」


カグラとミリアーナは今日も仲良し。

End

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