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□聖なる焔に幸福を
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転生ネタより、ED後の世界にて
アッシュ→20歳兄、作中ではロイ
ルーク→10歳弟、作中ではジーク
容姿はそのまま
ローレライ仲間
アシュルク要素あり

ガイ厳しめ
ジェイド、ティア、アニスも若干厳しめ

















もう一度、やり直してみないか。

その提案を二つ返事で承諾したルーク。

仕方なくついて行くことにしたアッシュ。

ローレライはできる限り支援することを約束し、二人を地上へ送り出した。







聖なる焔に幸福を












「ルーク!?」

いきなり男が叫び、子供の腕を引っ張った。

買い物の途中で考え事をしていた赤い髪の子供は、抵抗することもできず見知らぬ男に捕まってしまう。

「何!?」

「お前、ルークだろ? 俺だよ、忘れちまったのか?」

逃がしはしないと言わんばかりに男は子供を掴んだ腕に力を込めた。

だが対する子供は理由も無く恐怖が襲ってくるのを感じ、咄嗟に助けを求めて叫ぶ。

「嫌だ! 誰か助けて! 兄さん! 兄さん助けて!」

「兄?」

男の質問には答えず、子供は叫び続ける。

「離せよ! お前なんか知らない! 兄さん!!」

いよいよ本格的に暴れ出した子供は男の手に余る。

男は誰か仲間に手伝ってもらおうと振り返りざま、後頭部の鈍痛に意識を失う。

「この人攫いが!」

「にっ兄さん…!」

子供が青年に抱きつく。心底安心した様子に抱き止めた青年も大きく息を吐く。

「怪我はしてないな? ジーク」

「うん、大丈夫。でも掴まれたところ、痛い…」

袖を捲り上げ確認すると細い腕に赤い手形が残っていた。

内心舌打ちをし、下級治癒術をかけると腕は元の色を取り戻す。

「何の騒ぎです?」

青い軍服がこちらへ向かってくる。赤い眼が見開かれ、倒れた男と威嚇する兄弟を見、そして口を開いた。

「…失礼ですが、貴方たちは…」

「人攫いの仲間に答えてやることなどない」

弟を背にかばい銃のグリップに手を添えた青年の姿は、数年前の旅で協力関係になった「彼」によく似ている。そして彼の陰に隠れた子供。その子供もまた違う「彼」の面影がある。

「私はジェイド・カーティスと申します。答えてもらえませんか」

「嫌だと言ったら?」

「さて…どうしましょうか?」

にこにこと笑う軍人の背後には同じ軍服を着た兵士が並ぶ。

盛大に舌打ちした青年は渋々ながら銃のグリップから手を離す。

「何が知りたい」

「貴方たちの名と、簡単な素性を」

「俺はロイ。こいつはジーク。ジークが生まれた年に親が死に、それからずっと街を転々として暮らしている」

「何故街を転々と?」

「俺たちは兄弟だが、俺がいつまでジークに構ってやれるかわからない。数年前の戦争騒ぎや瘴気問題なんかが今後一切起こらないとも言い切れん。百聞は一見に如かず、というだろう」

「なるほど…」

ジークがロイの服にしがみつく。それに気づいたロイがどうしたか聞くとジークは無言である方向に人差し指を立てる。

そこには先程殴り倒した男が目を覚まし、落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

「ルーク、に、アッシュ?!」

「人違いだそうですよ、ガイ。彼らは兄弟で、兄がロイ、弟がジークという名なんだそうです」

「俺が言ってるんだ、こいつがルークに間違いない! …そうだ、ベルケンドで検査をしてみればわかるはずだろ!?」

必死に言い募るガイは周りが見えていない。早く連れていこう、と再びジークの腕を取ろうとして、額に銃口が突き付けられる。

「お前たちの質問には答えた。早々にお引き取り願おう」

「アッシュ、お前…!」

「人攫いが…まだ何か文句があるのか! この前だってそうだ。髪の長い女とピンクのチビがジークを攫おうとしていた!」

「ティアとアニスだろ? 二人ともお前が心配なんだよルーク。一緒に帰ろう」

ガイの手の先にいるジークは酷く怯え、ロイの陰から出てこようとはしない。

「ルーク…? 俺だよ、わかるだろ?」

「知らない、俺はジークで、ルークじゃない。お前なんか、知らない!!」

突然、盛大な破裂音が響く。

目を向けた先でロイの持つ銃が晴天を向き、煙を上げていた。

「これ以上の干渉は正式な令状を持ってきてもらおうか?」

「…だ、そうですよガイ。今回は引きましょう」

有無を言わさぬ笑顔でジェイドがガイを引きずっていく。

ガイは何事か喚き続けていたが、やがてそれも聞こえなくなっていった。

「…よりにも寄って、あいつらか」

「なぁ殺さないか? うぜぇし」

心底嫌そうにジークが言う。ロイも同意しながら今は見逃すことを提案した。

「ローレライ。聞こえるか」

ロイが囁くとすぐに光の球が現れる。

『聖なる焔の光。呼んだか』

「見ていただろう? あいつらの記憶を消せ」

『記憶だけでいいのか?』

「充分だ。確実に消しておけ」

返事もそこそこに光の球が消える。ジークが不満そうにロイを見た。

「ジーク。今はその時じゃない」

「じゃあいつならいいんだよ?」

「…決まっている。二度は無い。次こそ確実に…」

『消滅させよう』

光の球が再び現れ、ふよふよと“ルーク”の周りを移動する。

『我が愛しき同位体に齎された仕打ちの数々。その贖罪すら放棄した下等生物。本来なら直ぐに消滅させてやるものを…』

愚痴るローレライに“ルーク”の溜飲は少しばかり下がったようで、わかった、わかったとローレライを宥めている。

そんなやり取りを見ていた“アッシュ”は呆れた様子で帰り支度を整えた。

「まだ遊び足りないんだろうが」

「当たり前だろ。まだ、えーっと、なんだっけ…有り過ぎて忘れたけど、遊びたい!」

「だったらまずルールを覚えろ。ゲームはそれからだ」

「…悪かったな! 覚えが悪くて!」

まだ何も言ってないだろう、と言いながらロイはジークの手を引き帰路へ着く。

昨日教えたチェスのルールが複雑すぎて覚える気にならない、と放り出したのはジークで、未だ役も覚えているかどうかが怪しい。

「まぁ、直ぐに終わるだろうが」

「なんか言った? “兄さん”」

「…いいや。帰ったらルールを覚えろよ、“ジーク”」

仲の良い背中を見送り、ローレライは笑う。

今や世界は二人に“生かされている”に過ぎない。

もしロイが要らないと言えば、ジークが飽きたと放り出せば。

一瞬で全てを、跡形もなく消滅させよう。

そうローレライは決めていた。












聖なる焔に幸福を
(遊び疲れたら帰っておいで)


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