ノベル
□もがき苦しみ、泣き叫べ!
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PT、ルーク厳しめ
とくにナタリア、ガイ、ティア
少しだけローレライも厳しめ
主体→黒アッシュ
タタル渓谷はセレニアが咲き乱れ、彼の人は再びオールドラントへ還ってきた。
「おかえりなさい」
ティアが手を伸ばし青年へ向ける――が、青年は手を取ろうとしない。
「ルーク…?」
その名を聞いて青年は眉間に皺を刻む。
「俺は、アッシュだ」
「やはり貴方でしたか」
予想していましたと言わんばかりの台詞と共にジェイドが前へ出る。
「どういうことだ」
「ビッグバンと呼ばれる現象です。簡単に言えば同位体の間で起こるコンタミネーション現象の事ですね」
そのまま淡々と説明をするジェイドに、最後まで聞いたアッシュは舌打ちをした。
「面倒なことを押し付けやがって…」
「そんな言い方無いだろう!」
噛み付いてくるガイに対し、アッシュはさらに眉間の皺を増やした。
「面倒だから面倒だと言って何が悪い。俺は死んだままで良かった。生き返してほしいなどと望んだ覚えはない」
「アッシュ! どうしてそんなことをおっしゃいますの? ルークは貴方のために…」
「ナタリア。お前がそれを言うのか」
何の感情も含まない視線を向けられたナタリアは首を傾げた。
「…何のことです?」
「お前は昔から俺たちを見分けることができない。今も俺が名乗らなければ誰なのかわからなかった。そうだろう?」
「それは…」
口ごもるナタリアにさして気にした風でもなく視線をずらす。
「ガイ、お前もだ。俺を殺そうと屋敷に潜り込み、結局なにもできずレプリカと親友ゴッコとは呆れたものだな」
「なんだと?」
「レプリカはこれっぽっちもテメェを親友だなんて思っちゃいなかった。子供は大人の顔色を見て育つものだろう?」
心当たりがあるのか、瞬時にガイの顔色が悪くなる。
「お笑い草だな、無能な使用人」
青年がククッと喉の奥で笑う。
ルークなら絶対にしない笑い方だ。
「…なんだ」
視線に気づいたアッシュが振り返る。
それを合図に今まで黙っていたティアが口を開く。
「ルークは、ずっと貴方に居場所を返したがっていたのよ。それなのに…」
目を伏せティアは一筋の涙を流す。
まるで悲劇のヒロインを演じる様を不愉快そうに眺めたアッシュは、不機嫌なことを隠そうともせずに言い放つ。
「俺は居場所を"奪われた"と言っただけだ。"返してほしい"などと言った覚えはないが?」
「…そんなこと!」
「誰が自分の死を待っている場所へ帰りたがる? 父も、王も、そしてスコアを盲信する国民全てが俺の死を願っていたところに!」
アッシュの怒りに反応したセブンスフォニムが舞い踊る。
「それは、第七譜石に滅亡が詠まれていると知らなかったからです!」
「しかし、あのモースでさえ滅亡のスコアを信じはしなかった。それを国民すべてが信じるとでも思っているのか」
「その時は私が説得してみせますわ!」
「…国民を裏切った偽姫が言えた文句じゃねえな」
「何を、」
「和解したとはいえ王家の血を引かない娘の言うことを、国民すべてが信じると? 笑わせてくれるな」
言葉を無くしたナタリアの顔が青くなる。
誰もが沈黙し、アッシュは俯き片手で顔を覆った。
「レプリカが邪魔をしたせいで俺は死に損なった。…ネクロマンサー、貴様も邪魔をしてくれたな?」
「でも貴方は"死ぬつもりはない"って言ってたじゃない!」
「あんなもの、建前に決まっている!」
憎々しげにアッシュはローレライの鍵を抜き、わかりやすいように大きく左腕を斬りつける。
「黙って見ていろ」
派手に出血したと思うとみるみる止血し、傷口が塞がっていく。
「わかっただろう。俺は死にたくても死ねなくてな。あの時をどれほど待ち望んだことか、貴様らにはわかるまい」
「…じゃあ、ルークを生かしたのは?」
「生きて苦痛を与えるために、だ。他の理由など無い」
アッシュの目にはもう何も映らない。
「ローレライが俺を生かした時点で世界の結末は決まっている…」
アッシュの掌に集まっていくセブンスフォニム。
それに気づき誰かが何かを必死に話しているが…アッシュには届かない。
「世界は俺に何をしてくれた? 化け物と呼ばれ虐げられた人生が愉快だとでも思っているのか?」
「アッシュ!」
「結局、スコアの通り俺は死に世界は滅ぶ。…滑稽だな」
目元を緩ませてアッシュは超振動を放つ。
雑音が悲鳴に変わり、やがてそれも消えて行く。
「…滑稽だな」
無残な姿になったセレニアの花を踏みつぶしながらアッシュは思う。
俺が世界を見捨てたわけじゃない。
世界が、俺を見捨てた報いだ、と。
そして世界はスコアに捕われて身動きすら取れず、死に絶えた。
もがき苦しみ、泣き叫べ!
「救いの神は世界を見捨てた!」