ノベル
□悪しき夢は現となりて
1ページ/1ページ
アッシュ復讐物語そのA
ユリアシティからバチカルへ戻りました
キムラスカ+ダアト厳しめ
軽微ながら残酷表現あり
主体→黒アッシュ
「只今戻りました。伯父上」
なんの前触れもなく現れた、アクゼリュスで消えたはずの男が笑みを湛えながらそう言った。
「よ、よくぞ戻った。ルーク」
ざわつく外野などお構い無しに男は笑みを嘲笑に変えた。
「御冗談を。私が戻れば不都合なのではありませんか陛下?」
インゴベルトの横に起立するダアトの大詠師が真っ青になる。
「何を…」
「キムラスカの王たる者が、私の言ったことの意味がわからないと?」
男が王へ背を向け、集まっている重鎮たちへ声を張り上げた。
「我がキムラスカの王は我が命と引き換えに国の繁栄を手にしようとしていた! しかしそれは世界を殺すことに等しい愚行であるとここに宣言する!」
「そんな筈はない! スコアには未曾有の大繁栄が詠まれているのだ!」
男が肩越しに振り返り、口元を吊り上げ再び前を向く。
「聞いたか皆の者! 我が死はスコアに詠まれていた。死のスコアは詠まれないはずではなかったのか!?」
大詠師は今度こそ色という色を無くす。
「ダアトはキムラスカを我が物にしようと虚偽のスコアを詠んだのではないか!?」
何かに気づいたのか、重鎮の中で何人かが顔色を変えた。
「私が人々を引き連れ鉱山の街へ向かい、街とともに消滅しなかった。これが絶対ではないことの証明ではないのか!?」
痛いほどの視線が大詠師へと向けられ、無言の圧力に耐え切れなくなりついにその場から逃げようと大詠師の足が出口へ向かう。
「何処へ行かれるのです? 大詠師モース」
「き、貴様は…!」
見事な身のこなしでモースを床に転がし、止めとばかりに足へナイフを突き立てるアウラ。
彼女が戻ってきたことを知り、男は王へ向き直った。
「考えることを止め、スコアに頼り切ったこの国はもう要りません。私は復讐のためにここにいます」
男は一瞬で本来の姿に戻ると利き腕を上げ、一言。
「滅べ!」
男の一言が引き金となり轟音と悲鳴が響く部屋。そこで楽しげにしている男だけが平然と、なんの影響を受けずに立っている。
この場から逃げようと塞がれた扉に縋り付く者や、要人を救えないか右往左往する者。今更ながら事態を理解し叫ぶ者など、見ていて飽きない。
「アッシュ」
アウラが瓦礫が落ち崩れた王座を背景に汚れた手袋を捨てながらアッシュへ近づいていく。彼女もまたアッシュと同じく部屋に齎された災いの影響を受けていない。
「全部指示通り終わったわ。早く行きましょう」
「わかっている」
アッシュがローレライの剣を抜き、適当な床に差し込み半回転させる。譜陣が展開すると溢れた光が二人だけを飲み込んで消えた。
平地へ移動した二人はバチカルを見上げる。
「今回壊すのは上半分。…もうすぐよ」
アウラの言葉通り爆音が響き渡る。派手な割に威力を抑えたそれは、完全に消してはおもしろくないとアッシュが注文をつけた結果だ。
「上出来だな」
「お褒めに与り光栄です」
思わず笑い声が漏れる。
「次はどうするつもり?」
「ヴァンに会いに行く」
アウラの表情が変わる。
「兄さんに、ねぇ…楽しみだわ」
楽しみ、と言いながら頭の中では物騒なことしか考えていないアウラ。それも当然か――本当の兄ではないのだから。
「居場所が分かり次第動く。準備しておけ」
「わかってる」
燃え盛るバチカル城を後に、二人の旅は続く。
彼らを馬鹿にした者たちがこの世からすべて消える、その時まで。
::
彼らを馬鹿にしなかった人には手を出さない予定。