ノベル
□汝は救いを求めるか?
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ネタの人間不信アッシュの設定ですが黒要素が足りない(ので、小話です)
確か本編序盤では小競り合いが頻発してた→アッシュも前線に駆り出されていた、という設定
ヴァン厳しめ、シンク贔屓
主体→黒アッシュ
自身の全身を伝い落ちる液体は赤かった。
…血だ。知っている。
けれどもアッシュは無感動に滴る赤を見つめ、感情のない目は前を見ているようで何も見ていなかった。
戦場では勝った方が正義。生き残ってこそ勝者。善と悪なら善。そこに、人間らしさは必要ない。
「よくやったアッシュ」
背後からヴァンが近付き、僅かに笑む。その目に妖しい光が宿っていたが、アッシュがその意味を理解することはない。
「褒美をやろう。何が欲しい?」
上辺だけとはいえ、ヴァンがアッシュを褒めたということは機嫌がいい、ということだ。
つまり、ヴァンの機嫌を取るには生き残ればいい。これからも生き残るにはどうすればいいか、など…考えずとも思い浮かぶ。
「…剣を」
アッシュが手元を見下ろせば、先程まで使っていた剣は汚れ、酷く刃こぼれしている上に、剣先は拳一つ分も折れてしまっていた。
直せないわけではないが愛着があるわけでもなく、もし綺麗に補修したとしても再度使う気にはなれなかった。
「生き残る為の、剣をくれ」
「良いだろう。お前に合ったものを用意させる」
それからヴァンは、戦場から帰ってくるアッシュに望むものを望むだけ与えた。
力を望めば体術や譜術を教え、知恵を望めば一般では立ち入れない蔵書の扉を開き、権力を望めば地位を与えた。
スコアによって死期を知っているアッシュは必ず生きて帰れると確信し、恐れることなく戦場へ向かう。
人間を信用しないアッシュは裏切られても何も感じず、ただ殺戮人形のように戦場を駆けた。
――あの日見つけた、自分のレプリカ。ただそれだけがアッシュの中で気にかかる存在だった。
ある日いつものように戦場から帰ったアッシュへヴァンは尋ねた。何が欲しい、と。
その時アッシュはいつもと違い、何か強い意思を宿してヴァンに望んだ。
「お前の、首」
ヴァンは一瞬馬鹿にしたようにアッシュを一瞥したが、己の首筋に迫る刃を認め反射で防ぐ。
「…では」
剣を弾き返し間合いを取ったヴァンは剣を構え、対峙する。
「私を越えて見せよ。アッシュ!」
大剣と黒刃が交差する。耳障りな金属音だけが狭い部屋に響く。
刃を交え、弾き、また斬りかかる。何度も繰り返しながら、いよいよあと少しでヴァンの首に黒刃が刺さる、その間際に荒々しく部屋のドアが開かれた。
「ちょっとアッシュ。約束忘れてない?」
無遠慮に室内へ入ってきたシンクはやや不機嫌にアッシュを睨む。
アッシュはいいところを邪魔され舌打ちしながらも返事をする。
「…わかっている」
「早くしてよね。こっちは待ってるんだからさ」
再び乱暴にドアを閉め去っていくシンク。あれは相当怒っていると判断してアッシュは剣を収めた。
「お前は、そろそろ用済みだ」
ヴァンにそれだけ言い残し、アッシュはドアの向こうへ消えていく。
その日を境にアッシュはヴァンを師匠と呼ばなくなった。
アッシュにとってヴァンは力を与えてくれたことに感謝こそしても、人間である以上信用はしていない。
潮時だ、と手を離したのはヴァンではなくアッシュが先だった。ただそれだけの話。
汝は救いを求めるか?
(他力本願は趣味じゃない)
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おわかりいただると思いますが、アッシュの優先順位はシンク>>>>>>>>>ヴァン、です。