ノベル2
□翼と蜥蜴の因果
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「えっと…つまり、ギィはギルバートでギンジさんの実の兄で、でもギルバートは死んでてギィになった、と?」
宿に集まった面子はまず新顔のアッシュを紹介し、ギンジとノエルも挨拶をしてから話が始まった。
一通りの説明は先ほど申し出た通りギィからだった。かなり長かったので要約すると、戦争で家族がバラバラになり両親はその時に死んだ。ギルバートがギンジを安全な場所へ連れて行ったものの、二人一緒にというわけにはいかなかったのでギンジを先に行かせた。ギンジの安全を確実なものにするため、ギルバートはリスクの高い賭けをすることにした。賭けは幸い成功したものの、一時的に身動きができない状況になってしまったので何も知らないならその方がいいと、ギルバートは死んだことにしておいたという。
「…まぁ、そんなところです」
ギィが首元から鎖を引っ張る。取り外すと飾りをひっくり返してみせた。
「唯一残った私の過去、とでもしましょうか…ほら、ここに」
ギィの指すところに子供が二人。どこにでもいそうな、普通の子供が色素の薄い髪で笑っていた。その横には両親だろう大人の姿もある。
「本当に、兄さんが生きていたなんて…」
ギンジの視線を浴びながら、ギィは目を合わせることができない。
「それもあまり口外しない方がいいでしょう。私は今ギィとして生きていますが、情報はどこから漏れるかわかりません。ただでさえ今の私は人に褒められるような仕事はしてませんから」
「どういう…」
困惑気味のギンジを置き去りにして、ギィは冷めた目で説明をする。
「ギルバートは死んだ。それが現実であり真実だということです。あなたはギィの弟ではない、と言えばわかりますか?」
「そんな!」
「今の私とあなたでは生き方が全く違います。今の私に弟という存在は邪魔なだけ。今すぐに納得していただけないでしょうが、理解はしていただきたい」
バッサリと言い捨てたギィに今まで黙って聞いていたアッシュが口を開いた。
「…家族、なんだろう。お前はここに残っていた方が良いんじゃないのか?」
「何を、」
「任務なら他にも手はある。気難しいが兎もいるし面倒だが帽子屋も動かせるはずだ」
「ですが…」
珍しく歯切れの悪いギィにアッシュも譲れない、と言い募る。
「このまま俺についてくる気があるならきっちり朝までに話し合ってこい。そうでなければ今後の付き合いは考えさせてもらう」
アッシュの発言にギィだけではなくミシェルまで顔色を変えた。そんな二人を知ってか知らずか、アッシュは部屋から出て行ってしまう。
「…ねぇ、ギィ。アッシュ師団長もああ言ってるんだし…私もよく話し合った方が良いと思うよ。その……“私みたいなこと”になる前に、さ」
アッシュの背を見送ったミシェルが心配そうに眉尻を下げた。ミシェル自身もずっと自分の“家”が大嫌いだった。家族なんて他人より酷い、信用なんてできないものだと思っていた。けれどそれは虚構でしかなく、後から知った真実は…自分が思っていたよりもずっとずっと、温かいものだった。そしてもう二度と手に入らない。それが惜しいのか、悲しいのか、寂しいのか…ミシェルにはまだ、わからない。
「それなら私も席を外しますね」
「いいの? でも…家族なんでしょう?」
「こういうときは男同士の方がこじれなくていいんです。それより明日の打ち合わせをしませんか? ご迷惑でなければ私も出来る範囲でお手伝いしますよ」
「本当ですか!? すごく助かります!! それじゃあ…」
ノエルの申し出にミシェルの目が輝く。するとノエルが笑い、ミシェルと一緒に席を立った。ミシェルがギィを見ると手をひらひらと振っている。扉が閉まる直前、頭を抱えているギィを見たミシェルは明日の朝までと言わず昼までかかるかもしれない、と頭の片隅で思ったという。