ノベル2

□翼と蜥蜴の因果
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ギィに名字とかありました。
とりあえず出演:猫、蜥蜴、女王陛下、ギンジ、ノエル
厳しめとかありません。


ああ、なんて不幸なんだろう。

ギィはそう思いながらも口には出さず、黙々と手を動かしていた。

簡単に説明しよう。

任務です、出かける、不幸になる。以上。

不幸になる、をもう少し詳しく説明すると、移動中にミシェルがふざける、怪力を発揮する、乗っていた譜業の一部が破壊される。後は察していただけるだろう。本来ならばミシェルが何かしら手伝うべきところだが、あのミシェルは譜業のふの字も知らないので下手に触られると二次災害の恐れがあり、任務が完了できていない今はギィが修理を引き受けた。

不幸中の幸いは、ここからシェリダンが近いのでそこまで持てば本格的な修理が行える、ということだ。ミシェルに破壊された機材の部品もあるだろうし、いっそのこと経費で落ちるのだから新調してもいいかもしれない。そんなことを考えながらギィは応急処置を施していく。

「動きそうか?」

様子を見に来たアッシュが声をかけると手はそのままにギィが答える。

「大丈夫…とは言い難いですが、なんとか。シェリダンまで行けばどうにでもなりますので」

「うっはー、悪ふざけなんてするんじゃなかった…」

「反省しているならいいんです。 …次は、ありませんけどね」

台詞の次は、を強調しギリッと音が鳴るまでスパナを回すギィ。それと同時に後ろにいたミシェルが顔を引き攣らせた。

「今できる処置は終わりました。ミシェル、手伝ってください」

スパナを工具箱に戻し、立ち上がりながらギィがミシェルに簡単な指示を飛ばす。そのまま工具箱を持ち上げるとミシェルに動かすよう頼んだ機器の調子を見て回る。

「…」

しばらく様子を見ていたギィは異常音がないこと、数値が誤差の範囲で動いている事を確認して再びミシェルに指示を飛ばす。一瞬の浮遊感の後、進み出した譜業の進行方向を確認し……ギィはふと、考えてみればシェリダンという街へ訪れるのは初めてだと気づく。

この際、技術者たちに色々と話を聞くのもいい機会かもしれない。これからのことも踏まえて。

そこまで考えたところで譜業が本格的に動き出す。処置をしたとはいえ万全ではないこともあり、ギィは譜業の様子を見ることに集中した。





「すみませーん! どなたかいませんかー!!」

なんとか明るいうちにシェリダンへ着いた一行は役割分担をして街中に散った。ギィは部品の調達、アッシュは宿の手配、ミシェルは作業場と道具を一時的に借りられないか交渉するという、一番面倒な役割を与えられた。おかげでそれらしいところを見つけて声を張り上げるも、人の気配が全くしないか、機械音に掻き消されて声が届かないかの二択で手こずっている。今回は後者になるが、そろそろ誰か応えてくれてもいいのに、と思い振り返ると、ゴーグルをつけた女性が声をかけてきた。

「どうかされました? …旅の方ですかね?」

女性は手にスパナを持ち、少々汚れた格好でゴーグルを外しながら聞いてきた。

「あの…急で大変申し訳ないんですが…少しの間だけ、作業場をお借りできないかと思って…」

そう切り出したミシェルが女性に詳しい事情を話すと、ちょっと待っててくださいね、と建物の中に入っていく。すると中で響いていた機械音が止み、しばらくして先程の女性と銀髪の男性が出てきた。

「はじめまして、おいらギンジって言います。こっちは妹のノエル。話は妹から聞きました。こんな狭いところで良いならお貸ししますよ」

ギンジの申し出に、思わずミシェルは笑顔になる。

「ありがとうございます! 本当に助かります! …あ、それとすみません、作業するのは私じゃなくて、もう一人いるんですけど…」

「わかりました。今日はもう遅いので明日から、ということでもいいですか?」

「もちろん、大丈夫です。急な申し出だったのに、ありがとうございます! それじゃあ…」

また明日。そう言おうとしたミシェルに男の声が被る。

「ミシェル! お使いは終わりましたか? 師団長が待っているのでそろそろ行きますよ」

一抱えほどもある荷物を持って、ギィがミシェルの背に声を飛ばしていた。ギィに気づいたミシェルが手を振って応える。

「ギィ! ちょうどよかった〜! たった今、話がついたんだ。こっちはギンジさんとノエルさん。明日からここの作業場を貸してくれる人たちだよ」

「ギンジ…?」

名を聞いて、顔を見て、ギィの目が見開かれる。まるで幽霊を見たかのように。それはギンジも同じようで、顔には「信じられない」と書いてある。

「兄、さん、なのか? どうして…死んだ、はず…?」

ギィは深呼吸をするとギンジの顔を見た。昔の面影を残す顔に、特徴的な銀の髪。できるならば避けたかった≪現実≫がそこにある。

「ギルバートが死んだ…というのならば正確には違います。死体が出ないので行方不明。そこから状況的に見て生存は絶望的だった、という観点から死亡扱いとなったのです。実際にギルバートの死体(からだ)を確認した者はいないはず。…私自身も生存しているという報告はしませんでしたから」

「本当、に…兄さん? でも、どうして…!!」

「ちょ…っと! ストップ! 話が見えないんですけど〜!!」

思いもよらない二人の話にミシェルが割って入る。ノエルもぽかんと立ち尽くし、話についていけてないことが見て取れる。

ハッと我に返ったギィとギンジは顔を合わせ、しばらくしてからギィが口を開いた。

「…とりあえず今回は私から説明をしましょうか。手短にできる話でもないですし、師団長を待たせていることを考えると後ほど宿で聞いてもらった方がいいですね」

ミシェルが確認も兼ねてもう一度二人に伺うと二人も了承し、ノエルの提案で作業直後の埃まみれで話し合うのは嫌だということで、時間を置いて会うこととなった。時間は既に夕方。今夜は長くなるだろうとギィは覚悟を決めた。

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