キリリク
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「イ…イオン様…?」
ジェイドからアニスに視線を移した導師は表情一つ変えず、笑顔のまま低い声音で話し出す。
「よくも僕を殺してくれましたね、アニス。人を殺しておいて自己弁護する様はまさに醜さの極みでしたよ」
イオンの姿をした“何か”。そう判断したらしいティアが目を吊り上げて声を荒げた。
「仕方なかったのよ! アニスは両親が…」
「ああ、国の主(あるじ)より庶民二人が大事なんですか。それは初めて知りましたね、アニス!!」
笑顔を崩さず言い放つ導師。もちろん、庶民より国の主が軽んじられていいわけがない。その言葉で今さら罪を自覚したのだろう、アニスは震えながら頭を抱え、何やらブツブツと呟いている。庇ったティアも同様、目を見開き“そんなつもりじゃ…”などと言っているが後の祭りでしかない。
「そんなことより、僕の優秀な部下を紹介しますね」
導師が身体を捻り、控えている者の顔を晒す。そこにある顔は礼拝堂にいる全員がよく知った人物のもの。
「ヴァン!?」
「それに、モース様!?」
叫んだティアとガイに対し二人は静かに導師の後ろに控え、無駄な動き一つしない。
「彼らはレプリカですよ。…ああ、僕もですけど。そこにいる彼女も、レプリカルークだってレプリカじゃないですか」
珍しいものでもないでしょう? と続け、話を戻します、とその顔から笑みが消えた。
「バルフォア博士。どうして一万のセブンスフォニマーが必要なんですか?」
「大量のセブンスフォニムが必要だからですよ」
「なら大量のセブンスフォニムは有機物ではなく無機物の場合は不可能なのですか? 分解すれば同じフォニムでしょう。わざわざ非人道的な方法を選ばなくても良いのではないですか?」
「しかし、無機物で多くのセブンスフォニムを含有する物など…」
「目の前にあるじゃないですか、博士。譜石もセブンスフォニムそのものと言っていいほど多くのフォニムを含有しています。このダアトで保管するものを全て運び出せば“大量”になるでしょう」
命が惜しくば差し出せ、と半ば脅しのように催促すれば、オールドランド中の譜石が集まるだろう。譜石はこの二千年余りで詠まれたスコアに比例し地上へ物質化しているはずだ。無いとは言わせない。
「運搬手段は…」
「何のためにアルビオールがあるんですか? 巨大なものはアルビオールで、小さなものは人に運ばせるなりタルタロスで運ぶなり方法がありますよ。場所は人々の安全を確保する為ならレムの塔が最適でしょうね」
「超振動はどうするんです? あれは…」
その質問を待ってました、と言わんばかりに導師の顔がニタリと歪む。
「それはもちろん、ルークがしてくれますよね? アクゼリュスの悲劇を起こし、償いたいと本人も言っているそうじゃありませんか!」
弾かれたようにティアとガイが導師を睨みつける。
「そんなこと…!」
「俺は認めないぞ!」
「では代案があるのですね? ぜひ聞かせてください!!」
きらきらと純粋な子供の表情に変わった導師の、期待に満ちた眼差し。しかし逆に二人はうろたえ始めた。