キリリク

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「まぁ、その前に俺の用事を済ませておこう。…元々、俺の能力だ。返してもらうぞ」

アッシュがルークの前に立つと何の前触れもなく胸に手を差し込み、途端にルークが苦しげにもがく。その手は物理的に肉を割いて貫通したのではなく、コンタミネーションのように見えた。

「ルーク!?」

ガイが反射でアッシュの手を引き抜こうとすると、見えない何かに勢いよく弾かれた。

「下郎如きが神に触れようとは…いい度胸だな?」

その間にもルークから何かを引き摺り出し、捻り潰すアッシュ。ルークは耐え切れずに倒れ込んだ。

「何を…ルークに何をしたんだ!」

「言っただろう。超振動の力を返してもらった。こいつが持っている間、俺が使えなかった能力だからな」

「なんだって…?!」

ルークを抱えあげるガイ。しかしルークは目を閉じたまま。必死にガイが呼びかけようと、目を覚ます気配さえない。

「あ、ヴァンならとっくに始末しといたから問題ないよ。そっちは心配なし」

「なんですって!?」

「呆気なさ過ぎてびっくりしたよ。ちょっと捻ったら壊れちゃったんだ。大したことなかったよね〜」

ティアの非難など無かったかのように背の低いフードを被った少年は楽しげに語る。マイス、と呼ばれたフードはああそうだった、とフードを取る。その顔を見たイオンが悲しげに呟いた。

「まさか、僕と同じ…」

「お前と一緒にすんな出来損ない!! 僕は被験者だよ、出来損ないと同じ名なんて御免だから今はマイスっていうけどね!」

「マイス!」

マイスの怒りに応じ、身体から緑を帯びた光が滲む。慌てて男が叫び、気付いたマイスは盛大に舌打ちをして光を消した。

「もう話は充分だ。答えを聞かせてもらおうか」

「い、今すぐ出せるものではない。少し時間をくれないか?」

「…いいだろう。三日だ。三日後に、瘴気中和を望むなら三万のセブンスフォニマーをフェレス島へ集めておけ」

「あ、あんまりですわ、アッシュ! 三日で三万など…」

「無理なら諦めろ。別に俺たちは痛くも痒くもないからな」

アッシュの冷たい視線に今度こそナタリアも押し黙る。

「ローレライの完全同位体である我らは神に等しき存在。…そこの出来損ないは既に力を失ったが。決めるのは汝。違うか?」

それが、神の判断だ。救いの手は差し伸べられた。

その手を取るかどうかは、お前たちが決めること。


何もしない神に祈れ。

自らの罪を認め悔い改めよ!!







「アッシュ」

ダアトの礼拝堂から去り廊下を歩いていたリージェがアッシュの手を引き立ち止まる。

ちりん、と髪飾りに付けた鈴が鳴る。この髪飾りはアッシュがリージェにプレゼントしてくれたもの。最初はリージェがアッシュにプレゼントした。そしたらアッシュが見よう見まねで宝石だけ変えて作ってくれた、お揃いの髪飾り。ただ、その時に初めてアッシュに隠し事をされて、悲しくて泣いていたら驚かすつもりだったんだ、と謝りながらプレゼントしてくれたもの。リージェの宝物だ。リージェの髪飾りにはガーネット、アッシュのものにはルビーが填められている。同じ赤い宝石、だけど違う宝石。それからアッシュは毎日付けてくれている。それが嬉しくて、嬉しくて。アッシュの髪飾りを見るだけで顔が緩んでしまう。

「俺、今日、頑張ったでしょ?」

ほめてほめて、と期待に満ちた目をしているリージェ。何をしてほしいのか、それとなく察したアッシュは笑った。

「ああ、よくやった。いい子だなリージェ」

人間どもを騙し、真実を虚実に代えて。虚実を、真実として語った。無邪気なリージェに難しいことだったが、ぼろを出さずにこなしていた。

アッシュはリージェの頭をなでてやる。とても嬉しそうにリージェが笑って、俺いい子! と上機嫌だ。

「これかも、アッシュの為なら何でもできるから、頑張るから、ずっと一緒?」

「約束しよう」

「絶対だよ!」

小さい神様は、笑った。自分の幸せな未来を夢見て。

神様の家族は、嗤った。愚かな世界の最期を知って。






そうだ。全てが嘘。

出来損ないに超振動の力を奪い取られただとか、三万のセブンスフォニマーで瘴気が中和できるなんて話は、全て嘘。

しかし何の確証もないまま信じた奴らは本当に愚かであるとしか言いようがない。所詮逃げ道を用意されれば飛びつく能無し。何の価値もありはしない、人類。



さあ愚かなる人間たちよ、嘘に満ちた真実を歩け!!








そして小さな神様は、大好きな家族と一緒に幸せに暮らしましたとさ。



→後書き&補足+反省会!

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