キリリク

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城の中でやっと見つけた謁見の間へ突入すると、涼しい顔をして王座にいる者が一人。

まさに鮮血が如き紅い髪を揺らし、笑いながら言葉を紡ぐ男は。

「ようこそ我が神聖なる城へ。歓迎しよう」

「アッシュ…! やっぱりお前か!!」

挨拶もせず勢いよくガイが吠える。しかしアッシュは笑ったまま微動だにしない。

「勘違いするんじゃねぇよ。俺もいるぜ? ガイ」

一行の後から入ってきたルークは後ろ手で部下に合図を送る。

「ルーク!?」

「久しぶりだな〜みんな。元気にしてたか?」

「本当に…ルーク、なの?」

「俺が俺以外の誰に見えるんだよ? ティア」

愛想良く笑いながら、軽く話に付き合いながらルークは横目で扉が完全に閉まったことを知る。

「積もる話もあるだろうけどねぇ。今は置いといてもらえるかい?」

いつの間にかアッシュの横へ登場していたノワールの台詞で一気に視線が集まる。

「何の用だい、お客人」

幾分低い声でノワールが尋ねた。応えたのはジェイド。

「何故このようなことを?」

まるでこどものゴッコ遊びだと言わんばかりの台詞にアッシュは嘲笑を一つ零した。

「何故? それはお前たちが一番よくわかっているんじゃないか?」

「どういうことですの…?」

心当たりすらないと言う、かつての幼馴染みに内心残念な気持ちでいっぱいになりながら、表面上は笑顔でアッシュは語る。

「英雄ルークの墓前で何を祈っていた? ナタリア」

返事を待たずアッシュの左に立つルークが続く。

「レプリカと被験者の偏見がなくならないのはどうしてだろうな、ジェイド」

同じくアッシュの右に立つノワールが続く。

「詠めないスコアを求める者が後を絶たないのはどうしてだろうねぇ、ユリアの聖女様」

何故か責められているように感じる視線と台詞に、思わずアニスが口走る。

「あたしたちは何もしなかったわけじゃ…!」

「お前たちは都合の良い夢を見ていたんだろう?」

「えっ?」

「墓前でただただ自分が望む英雄の帰還を待ち続け」

「違う存在を受け入れられないのは当たり前、仕方ないと放り出して」

「今まであったものがなくなっちまって不安になるのは仕方ないって、嘘の導きまで与えてねぇ?」

「嘘じゃないわ!」

「でも信者を騙してることに変わりないじゃないか。同じだよ、あんたらがやってることは詐欺師と同じさ!」

教団は迷える者に導きを与えると言った。スコアは詠めないが、導きは与えられる、と。その導きとは、今日は雨が降るから体調に気をつけなさいといったものや段差に気をつけなさいといった、いわば日常的なことだった。だが信者たちにとっては十分で、それを利用して教団を潤している現状と、さらにはティア――ユリアの子孫――も担ぎ上げ、信憑性を高めていた。

「あたしらは馬鹿じゃないんだ。もう疲れちまったんだよ。スコアだのレプリカだの、いろんなことがね」

「ここは、俺たちの国は英雄もレプリカもスコアも関係ない。偏見があるものは排除し、裏切り者には報いを与える。だけど俺たちの基準はみんなが納得した上で成り立ってる。この意味がわかるか?」

「そんなの…」

「今までお前たちは何をしていた? レプリカへの偏見は止まず…マリィレプリカとの約束一つ守られない。詠まれないスコアへの執着も止む気配がない。極めつけは"帰ってこい"と一方的に押し付けた約束の放棄」

バチカルに建てられた英雄の墓石が何より真実を語っている。帰ってこなくていいと、帰らないのが当然だ、と。

「前から自分勝手なお前たちが大嫌いだった。下らない茶番はもう終わりにしたいんだよ」

その時タイミングよく扉が開き、数名の部下が入ってくる。

「報告します! キムラスカ、マルクト両国の"説得"が成功しました!」

「ご苦労。下がれ」

部下が去るとルークが爆笑する。意味がわからない侵入者たちは困惑気味にルークを見た。

「ルーク!?」

「悪ィ悪ィ、でも予想通りっていうか、なんていうか…」

再び扉が開き、先程とは違う部下が入ってきた。

「報告します! まだ決定されてはいませんが、ダアトも説得に応じる方向で話が進んでいるとのこと!」

「往生際が悪いねぇ…まぁ、時間の問題だろうさ」

アッシュが部下を労い、退室を促すと部下の顔に気づいたティアが声を上げた。

「まさか…レプリカ!?」

「気づいたか? よく働いてくれるいいやつなんだ。名前は確か…」

「レプリカを作り出すことは犯罪ですよ!」

思わずジェイドが口を挟む。それが不愉快だとルークは眉間にシワを寄せて舌打ちした。

「それはお前らの基準だろ? ここにそんな基準はないし、レプリカへの偏見もない」

「レプリカはあくまでも一個人であり、死者蘇生の手段や他人の身代わりであってはならない。貴様らと違って我が国にはレプリカ誕生に関してある程度の基準が設けてある。問題ないだろう?」

死者蘇生と身代わりという単語に過剰反応したのはフォミクリーの権威とガルディオスの遺児。

「…そんなことより、キムラスカの説得とは一体なんのことです?」

"そんなこと"呼ばわりするレプリカ問題は、誰であろう偽姫本人が今は亡きレプリカたちと約束したものだというのに。出来の悪い頭は都合が悪いことをすっかり忘れてしまったらしい。

「何…単純な話だ。我が国を認めオールドラントの領土を少しばかり頂戴することへの許可と、今後一切我が国へ干渉しないことを条件に、各国で持て余しているレプリカをすべて我が国に迎え、こちらが指定する人物の身柄を引き渡してもらいたい、という取引を提案した」

この取引を承諾してもらうための説得だとアッシュは続ける。

「そんなこと、認められないわ!」

「まあ普通はそうだろうさねぇ」

余裕の笑みでノワールは腕を組む。

「こちらの条件が飲めないなら導きの"種明かし"をしてさらに、武力行使を厭わないことも"提案"してある」

「な…」

勿論、並大抵の武力ではない。レプリカを使えば幾つも軍隊を作ることが可能であり、超振動の発動で自滅覚悟の攻撃すら可能という武力の前に各国は無力であると自覚せずにはいられないだろう。

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