師団長

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5の続きっぽい感じ
オリキャラまた増えました







墓場に佇む三つの影。

喪服に身を包み微動だにしない影たちは端から見れば死を悼み過去を想う者に違いなかった。

――今宵が新月でなければ。

「お待ちしておりました。無慈悲なる女王陛下」

時間通りに現れた男が三つの影に近づいていき、一番小さな影に跪く。

「今宵は俄雨が降るのだとか。傘はお持ちになられて?」

黒いベールで隠れた女王陛下の顔を伺うことは難しい。しかし合言葉を確認した男はほくそ笑む。

「スコアでは晴天だと詠まれています。ご心配には及びません」

最も、これから先のことは何一つ考えなくていい。何故なら女王陛下はこのあとすぐに眠るから。

「少しばかり小雨が降るようですが…」

「何故?」

小首を傾げる女王を冷めた目で見下ろし、男は袖の下に隠したナイフを掴む。

「貴女の血が降るからですよ、女王陛下!」

振り上げたナイフは目の前にある細い首へ到達する前に阻まれる。男が驚いたのも束の間、ベールで覆いきれない唇が弧を描き言葉を紡ぐ。

「…如何しますか、無慈悲なる女王陛下」

小さな影がそう言いながら器用に爪を動かすと男からナイフをもぎ取り遠ざけた。

「下がれ。チェシャ」

「仰せのままに」

従順に下がるチェシャと呼ばれた小さな影と、入れ違いに命じた影が前に出る。

「言え。誰の命令だ」

女王陛下と呼ばれた髪の長い男は得も知れぬ圧力をかけて男に問う。

「誰でもいいだろ? ぶっちゃけオレには関係ないね!」

ナイフを奪われすぐに間合いを取った男は舌打ちした。聞いていた話とは違う事実に今すぐ逃げ出したい気分でいっぱいだった。

「言わねぇなら言わせるまでだ」

「ヤだね、時間に遅れるだろ!」

横目で伺った時間は予定より三分も遅れている。あと三十分も遅れれば他の予定にまで支障が出てくるだろう。

「無慈悲なる女王陛下…」

今まで黙っていた影が多少イラついた様子で得物に手をかける。女王は手を翳すことでそれを抑えた。

「貴様、名は?」

「無い。スコアにそう詠まれてるんだ。名を呼ばれたことなんて無い」

此の者に名を与えるべからず。さもなくば名を与えし者の身に世界で最も惨く残酷な災が降り懸かるだろう。…そんな生誕預言を詠まれた彼に名を与える命知らずは誰一人いなかった。勿論、血を分けた両親さえ名を与えることだけは拒否したのだから。

「…面白い」

女王は言葉通り楽しげに彼を眺めている。

「気分が変わった。今回だけは見逃してやってもいい。但し条件が二つある」

「条件だと?」

「一つは俺の師団に所属すること。もう一つは貴様に名をくれてやること」

「冗談じゃないね。お断りだ」

「貴方に拒否権など存在しませんが?」

チェシャが爪を構えて女王の右へ収まっている。猫の名に相応しくにやにやと笑いながら。

「断れば死を、受け入れれば名を与えよう」

星明かりを浴びる女王の両隣にはチェシャと銀色の男。嗚呼面倒なことになったと内心嘆く名も無き男。

「…予定が狂うよりマシだ。条件に従おう」

男が見た時計の針は次の予定まであと僅かしかないことを示している。

「"クロックラビット"。貴様の名だ。覚えておけ」

「それじゃ、俺はお暇するよ」

時間に遅れるからな。と、音もなく消えた姿に声を上げて笑う女王。

「よろしかったのですか、無慈悲なる女王陛下」

「何がだ」

「クロックラビットは恐らく貴方に従いません。駒には向かないかと」

「だが取り込んでおいて損はない。駒にする必要もない」

「ではなぜ?」

あからさまに不愉快だと伝わる台詞に女王は呆れ半分で答える。

「理由が必要か?」

「…」

黙り込んだチェシャを置いて女王は反対側を向く。

「ビル」

「こちらは滞りなく完了。近づくとわかるよう細工してあります」

ビルの返答に口許を吊り上げる女王。やはり出来る部下というのはいいものだと実感する。

「今回もご苦労だった。チェシャ、ビル」

「「有り難きお言葉です。無慈悲なる女王陛下」」

まだ少しふて腐れているミシェルにアッシュは苦笑し、今度のことばかりはギィも苦笑いしか出てこない。

「…帰ったら好きなもん作ってやる」

「間に合えばこの前食べたがってたケーキも買いましょうか?」

「そ、そ〜んな食べ物で釣られるほど子供じゃ…」

ふて腐れながら返事をするミシェル。が、彼女の中にある何かがぐらついているのは明らかで。

「明日の晩飯も好きなもん作ってやるぞ」

「本当ですか!!」

目をキラキラさせてアッシュを見るミシェルに腹を抱えて笑うギィ。ギィの反応に我に返り、顔を赤くして俯くミシェル。そんなミシェルを見て所詮どんなに大人ぶっていてもやはり子供だな、と安堵するアッシュ。

「かっ帰りましょうアッシュ師団長! 好きなもの作ってくれるんですよね〜!?」

楽しみで〜す! と、少し上擦った声を出しながら赤い顔を見せてなるものか、と先に進んで行くミシェルを追いかける二人。

その表情は誰が見ても幸せそうな笑顔、だったという。










師団長と陰謀
(え〜っとまずクッキーでしょ、スコーンでしょ、サブレに〜マフィンに〜トリュフに〜パウンドケーキ、後は〜…)(いい加減太りますよ?)(…じゃあ明日の夕飯はトマトたっぷりのナポリタンがいいですね、アッシュ師団長!)(!!)


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