師団長

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師団長の独白的な語り有り



「チェシャ」

無言で右側にいた少女が前へ出る。

「ビル」

同じく左側にいる青年が前へ。

二人は自らが一番得意とする得物を手に"許可"が下りるのを待ち侘びている。

「やれ」

「仰せのままに、無慈悲なる女王陛下」

自他共に認める有能な二人は許可を与えただけで思った通りに仕事をこなす。

特務に所属しない青年はアッシュが望めば何も言わず頷き側にいる。少女は自らが望み、それこそ血の滲むような努力の果てにアッシュの側へ。

(もう二度と手放さない)

過去にいた場所がどれだけ恵まれていたのかを思い知らされて数年。だが、恵まれていただけでそこに幸福などカケラも無かった。

父も母も息子を見ない。父は"国の贄"を見て嘆き母は"次期国王"を見て言い募る。他の者も似たり寄ったりで使用人の中には後ろ手にナイフを隠し持つ者までいた。

"自分"を持てない日々に飽きていた。なにもかもどうでもよかった。壊れて困るものなど何一つ無かった。

だが、今は違う。今は守りたいものがある。それこそこの身と引き換えにしても構わないと思えるほど大切なものが。

「無慈悲なる女王陛下」

青年が左へ収まり、ワンテンポ遅れて少女が右へ収まる。

「報告を聞こう」

「任務は滞りなく完了。その際にネズミを一匹捕まえました」

如何致しますか、と問う少女にアッシュは逃がすよう指示を出す。少女は渋ったが青年に宥められて承諾した。

「ネズミ一匹などお前では役不足だ。他に任せておけ」

「無慈悲なる女王陛下…」

「わかったか?」

「仰せのままに」

「だが――」

女王がチェシャの腕を掴み上げると脇腹辺りに血が滲んでいた。

「怪我をしてこいと命じた覚えはない」

「…申し訳ありません」

チェシャが言い終える前に女王は手を翳し治癒術をかける。浅い傷はすぐに消えた。

「俺は傷が癒せても苦痛までは引き取れない。俺はお前に苦痛を与えたい訳ではない」

「存じております」

「ならば…」

「女王陛下、我らはあの日の誓いを守ってみせます」

ビルはシルバーのリングを翳し、続ける。

「『我が身に死の安寧が訪れるその時まで、共に在ろう』――この言葉に偽りはありません」

ビルが翳したリングには緑の石が嵌め込まれているが、チェシャのリングには黄の石、女王のリングには赤の石が嵌められている。

「チェシャのこともご心配には及びません。今回はネズミ(イレギュラー)がいたので少々手間取っただけなのですから」

チェシャもすぐに同意し女王は溜め息一つ吐いて「なら、いい」と零した。

「次に命令が聞けないようなら特務から外す。文句は?」

「「ありません」」

「ご苦労だった。チェシャ、ビル」

「「有り難きお言葉です。無慈悲なる女王陛下」」


そして猫と蜥蜴は女王の元へと戻り、また騒がしい会話を繰り広げていた。







師団長と任務
(アッシュ師団長〜私お腹空きました〜ケーキが食べたいで〜す!)(良いですね、私も賛成です師団長)(俺に作れってか? ふざけんな!)(手伝いますから〜)(…)


※役不足=役目が軽すぎて力量を発揮できないこと

ここではチェシャにそんなちっぽけな仕事で手を汚す必要はない、と女王が言ってくれました。

わかりやすいと思いますが任務中はコードネームで呼んでます。チェシャ(猫)=ミシェル、ビル(蜥蜴)=ギィ、無慈悲なる女王陛下=アッシュ。女王はクイーンオブハーツのつもりでアリスモチーフ。ちなみにアリスは無垢なる少女という意味にするつもりでした。


そして脱線しますが本編への疑問。
アッシュは超振動が使えます。被験者故にコントロールばっちりです。超振動はセブンスフォニムです。治癒術にもセブンスフォニムを使います。
…てことはアッシュが治癒術使えても良いんじゃない?

もう一つは後半のモース見てて思うんだが、セブンスフォニムの素養が無い人間に治癒術かけまくってたらやばくね? ということ。
だって精神汚染されちゃうじゃん。治癒術セブンスフォニムだよ?


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