ノベル
□捏造キムラスカ王家
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あれから偽姫の追放、罪人の処刑など、やるべきことを大分済ませたファブレ家では天気がいいからと屋外でお茶会が開かれた。その席でシュザンヌが気になっていた話を切り出す。
「ところでアッシュ。あのレプリカはどうするつもりなの?」
そんな話もあったか、とクリムゾンが相槌を打つ。少し眉尻を下げてアッシュが口を開いた。
「…どうしましょうか?」
「お前ももう子供ではないのだから、自分で決めなさい」
息子の煮え切らない答えにクリムゾンが渋面を作った。
ちなみに、現在処分が保留になっているレプリカがどうなろうとキムラスカに何の影響もない。王家の血を引いている事も、ローレライの同位体で在ることでさえ瑣末なことに過ぎないのだから。
「わかっています、父上。ただ…惜しくないのかと」
「どういうことです、アッシュ」
「七年間、偽者と知っていたとはいえ…息子として接したレプリカを“処分”するとなれば、父上と母上の心が痛むのではないか、と…」
「優しいのですね、アッシュ。けれどそんな心配は無用です。私たちが愛しているのはあなただけなのですから」
笑いかけるシュザンヌと、頷くクリムゾン。
「どの道、加護のない者を王家と認めることはできない。お前の好きにするといい」
「その言葉を聞いて安心しました。では早速レプリカの処遇を決めて参ります」
時刻を知らせる鐘が鳴り、席を立つアッシュ。それを見送るクリムゾンとシュザンヌ。残された二人の頭上では、淡い青と赤の光が優雅に舞っていた。
◇
王族の中でも数えるほどしか知らない、光も音も届かない地下道の果て。温かな温度さえ殆どないそこへ、アッシュは迷わず進んでいく。最深部にある檻の前で持っていたランタンの火を壁の松明へ移し、そこでようやく声を出した。
「気分はどうだ? レプリカ」
「その声…アッシュなのか? ここはどこだ? みんなは!?」
明かり一つない部屋にいたルークは聞き覚えのある声に飛びつく。ずっと暗闇にいたおかげで時間の感覚が狂い、ここにきて何日経っているのか、自分がどこにいるのか、わからなくなっていた。とにかく情報が欲しいと訴えるが、アッシュは問いに応えない。
「単刀直入に聞く。お前は、生きたいか?」
「なんだよ、それ…」
そこでいきなり死にたい、と答える者はいないだろう。ルークは意味が知りたくて反射的に言葉を漏らした。
「悪いが俺たちはお前がいなくても困らねぇ。それがどういう意味か…お前の足りない頭で考えてみろ」
「まさか…」
さっと顔色が引いたルークは恐怖で表情が硬くなる。
「お前が心配している“あいつら”ならとっくに全員“処分”された。気高きキムラスカに害為す者として」
気高きキムラスカ。その強大なる力を隠し、守り続けてきた誇り高き血族。
「残念だがお前は王族と同じ色を持つ。その辺に放り出して悪用されちゃ困るんだよ」
悪用、と聞いてルークは冷や汗をかく。嘘だ、と、声なき言葉がこぼれていく。
「お前は特別に、選ばせてやろう。生きるか、死ぬか」
「…死にたくない!!」
震える手で鉄格子を握り締めるルーク。返事を聞いたアッシュは文字通り目の色が変わった。
「ならば誓え。気高きキムラスカに与し、我が身を守る盾となれ」
「わ、わかった」
ルークの返事を聞いてアッシュが手を翳すと鉄格子が消え去り、それを掴んでいたルークが前へ転がった。
「裏切りは許されない。いいな」
静かにそう言ってアッシュが片膝を付き、ルークの首を乱暴に掴む。一瞬で黒く、首輪のように浮かんだ譜陣。それは時間が経つと吸い込まれるように消え失せた。
「目に見えるものだけがすべてではないと肝に銘じておけ」
再びランタンを持ち、来た道を戻るアッシュ。ルークは呆然とそれを見ていたが、ピタリと止まったアッシュが振り返ってこう言った。
「いつまでそこにいるつもりだ?」
言われてルークは気づく。鉄格子が無くなった今、ここにいる必要がないと。
「待ってくれ!」
慌てて追いかけるルーク。追いつくまで待つつもりのないアッシュはマイペースに地下道を進んでいく。ルークが去った後…徐々に鉄格子は元通りになっていったが、ルークがそれを知る術はない。
今まで沈黙を貫いてきたキムラスカ王国。しかし、ダアトの度重なる無礼に耐えられず、ついに王は決心をした。
これから始まるであろう世界戦争。今まで隠していたものを披露する良い機会だと、キムラスカはほくそ笑んだ。
――それが永年、蔑み、呪われた一族だと嘲(あざけ)られようとも。
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この後、一族総出でダアトと戦争。追ってマルクトとも。人外だの化け物だのと叫ばれますが、弱い雑兵如きの小言でブレる小者はキムラスカにいません。眷族同士で会話みたいな連絡手段があるので援護等は見事でしょうね。ルークは文字通りアッシュの盾、ルークの首の譜陣はキムラスカを裏切った瞬間に息の根を止める呪いのようなものかと。150221