BOOK
□things your smile gives #1
2ページ/7ページ
初めて会ったのは、中3の春。
学校の屋上だった。
教科書通りの授業にげんなりすると、俺は決まって屋上に行った。
出入り口のドアの上。
たいていのヤツはこんな所に誰かいるなんて思わない。
授業なんて聞かなくても、テストで点を取ればうるさく言われることもない。
自分を主張しなければ周りから浮く事もない。
・・・あの頃は、自分の世界だけが大切でそれ以外はまるでどうでもよかったし、他人に興味もなかった。
『なんでだよ!なんでわかってくれないんだよ!俺すげー後悔してるんだって!』
・・・・・うっせー・・・・なんなんだよ・・・・・。
『俺だって辛かったんだ。お前何にも言ってくれないし、今も何でかわかんねーし・・・。でもまだ好きなんだって。やり直そうって!』
まだ半分も覚醒していない頭を、持ち上げるようにして覗くと、女の子に詰め寄る男の後ろ姿が見える。
覗きの趣味ないけど、なんせその2人がいるのが出入り口前だから、気付かれずに退散することが出来ない。
……ま、いいか…そのうちどっかいくべ…。
撤退をあきらめた俺は、このままウダウダする事に決めた。
聞くつもりもないのに、覚醒した耳に勝手に届くその話。
初めは確かに
『ヨリを戻したい』
だった男の主張は、5分もしないうちに
『自分がどれだけ頑張ったか』になり、
最終的には
『お前が原因でこうなった』
と責め立てていた。
おーおー…こりゃヒデー…。
『おい!!聞いてるのかよ!ゆきっ』
極端に視力が弱い俺には、女の子の表情はわからない。
ただ、これだけ責められれば泣いているんだろうと、簡単に想像がついた。
別にこの2人がどうなろうと知ったことじゃない。
聞いているのも不愉快になってきた俺は、のっそり起き上がると壁に取り付けてある梯子を降りた。
出入り口に向けて嫌みなほどゆっくり2人の間を通り過ぎる。
『えっ…?おっ、おまっ…』
男は突然現れた俺を見て目を丸くすると、言葉にならない声を出してる。
足を止め黙って見返す俺の視線に我に返ると、バツが悪くなったのか頭をかきながら、下の方に視線をさ迷わせている。
視線を移すと、女の子の方も驚いたのか少し目を見開きはしたが、それだけだった。
何も言わず、俺の向こう側にいる自分を責める男の方へ視線を戻す。
俺が驚いたのは、
てっきり泣いてると思っていたその子が、
少しも泣いていなかったこと…。