BOOK
□things your smile gives #4
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咳が続いて熱が出た。
でも病院は好きじゃない。
そうなると取るべき手段は一つ。
『ひたすら寝る』
寝るという行為は大概の事を解決するが、さすがにそんな状態が1週間も続けば家族に連行される。
『もとおー、大丈夫?今受付してくるから、ここで待ってな』
家族内でただ一人、今日用事のなかったねぇちゃんに引っ張り出された総合病院。
ここ数日で奪われた体力。
今も続く熱と咳でフラフラの俺は、混んでいる内科の診察室前から少し離れたベンチシートに座わると、壁にもたれ目を閉じた。
はぁ…壁の冷たさが気持ちいい……。
その時ガラガラと何かを運ぶ音と、
緊迫感に満ちた声が聞こえてきた。
薄く目を開けると、患者を乗せたベットがこちらに向かってくる。
白衣を着た看護師らしき2人が、“今から処置しますよ”とか、“わかりますか”とか、何度も声をかけながら目の前を通り過ぎ、『ICU HCU 』と表記された部屋へ消えていった。
目の前で起こる出来事に、戦うように対応してる白衣の一人は、隼人さんだった。
とりとめがなく、まとまらない思考をかき集めて、ようやく理解。
隼人さん、看護師だったんだ…。
知ってみれば納得。
仕事帰りなのに会社勤めとは思えないラフな格好をしていたのも
見かける時間が不規則だったのも
仕事中は連絡が取りにくいのも
年齢に合わず厳しい顔つきなのも…
『いたいた!基央、先にレントゲン撮ってきなさいって。行くよー』
あんな風に戦う事が出来る人が側にいるのに、たかだか風邪でさえ自分でどうにも始末がつけられない。
そんな俺がゆきに出来る事なんて本当は何もないんじゃないか…
なにが『必要な人間になりたい』だ。
自分の小ささを噛みしめるように、隼人さんが消えていった方向をぼんやりと見ていた。