BOOK
□things your smile gives #3
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屋上で出会った頃は、入退院を繰り返す生活から、ゆきが毎日病院へ通う生活になっていた。
そして、梅雨も空けて、夏の空が広がる頃、
父親が亡くなる。
「火葬だけお願いして、アパートの更新も近かったから、兄の勤め先の家族寮に引っ越したんだ…。兄が就職して家を出てからは、父と2人暮らしだったから…私だけ置いておけないって」
夏休みに入る頃だったから、学校を欠席することもなかったし、
闘病する父親のことも、周りは知らない。
葬式もしなかった。
…そうか…だから、誰もよく知らなかったんだ…
“私大変なんだ”と言葉に出すのは簡単だ。
同情だろうが支える手も、出てくる。
でもゆきは出来なかった。
言葉に出すことで、崩れてしまうものが、ギリギリの自分を支えているとわかってたんだ。
俺の言った、あんな一言で救われるほど、追い詰められてたのに…。
話していても、涙は無い。
でも、泣いてない訳じゃない。
ゆっくりとした歩調に合わせて、俺の肩の辺りで揺れる頭。
手を伸ばして、ポンポンと軽く叩くように撫でた。
「えっ?!な、なに!藤君?!」
驚いて自分の頭に両手を乗せてるゆきの耳に顔を寄せて、
「話してくれて、ありがとう」
自分に出来る、精一杯の気持ちを込めて…
優しく、
暖かく、
ゆきの耳に届くといい…。