蜂蜜色のときめき

□君に贈る幸福の約束
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 誕生日プレゼントって悩むもの。送る相手に喜んでもらいたい場合は特に。
 一番楽なのは欲しいものを聞き出すこと。だけど、それは送る側の楽しみを確実に減らす。
 だから、おれと跡部はいつの頃からか贈り物をしなくなった。
 それは一見冷めてるように見えるけど、おれたちにとっては特別。身内の不幸以外は絶対に邪魔しない、という暗黙のルールがあるからどんなに忙しくても、誕生日だけは二人っきり。
 だから物はいらない。





 誕生日おめでとうの乾杯と同時に口付けを交わし、誕生日のプレゼントという名のおれを味わいつくす。いつもと変わらない幸福と特別感を一緒に跡部は飲み干す。ベッドの中では跡部を景吾と呼び、彼はありとあらゆる仮面を捨て去りただの男になる。甘えたになるのでほどほどにさせるのが大変。

 気だるい体を投げ出して、跡部が髪をすくのを好きにさせる。誕生日は言いなり……っていつもか。
 


「少しだけ未来の話をしようか?」
「未来?」

 恋しい、愛しい人を隣に睦言にするには少しばかり色気がない、と自覚はあった。
 しかし、このまま続く甘い寝物語はありえない。普通の男女だって別れるのに同性っていうのはリスクが大きすぎる。わりと周りは公認だけどさ。

「で、何の話だ?」
「終わりの話」

 ぴくりと微かに眉があがった。誕生日にする話か? って思ってる、きっと。おれ以外は分からないと自負するくらい愛してるし理解してるけれど、それでもいつかくるモノについて話あっていなければと以前から考えていた。だって跡部は普段忙しい。大切な話は大切な日にしか出来ない、ちょっと悲しいけど。

 不機嫌そうに、だけど律儀に先を促す。馬鹿だなぁって思う。聞きたくないなら口を塞げばいいんだ、あとはとろけちゃって話どころじゃない。
 でも、おれが考えて話してるって事を分かっているから、今すぐの別れじゃないと理解しているから、不本意でも話を聞こうとする。
 可愛いくらい愛しいお馬鹿さんにそっと口付ける。これ以上不安にしないように。

「そんな顔しないでよ? 男前が台無しだよ?」
「……そうさせてるのは、慈郎だろ?」
「もう! 終わりだけど終わりじゃない話なんだよ?」
「どっちかが死ぬ時の話か?」

 むむ、やはり跡部だ。感が良い。でもおれはにっこりと笑って否定した。

「普通に心変わりするかもよ?」
「ありえねぇな」

 即答。勿論正解。おれが跡部を嫌いになったりしないのと同じくらい、ううん、それ以上に跡部はおれを捨てられない。心変わりなんてありえない、と自信を持っていえるくらいお互いを解ってる。
 だから、引き締まった跡部の体にぴったりとくっついてお腹をなでながら

「わかんないよ? おれ、景吾がぶよぶよになったら嫌になっちゃうかも?」
「だったら、俺は慈郎がこれ以上寝てばっかで俺を蔑ろにしたら嫌になるかもな?」

 ん? ちょっと拗ねてます? 誕生日なのに半分寝てたから? でも、これはおれに甘えてくれてるんだよねぇ〜っとにやにやしてしまう。
 少しだけ、甘い名残を懐かしむようについばむと、ごまかされたと拗ねられた。違うってばぁ!

「真剣に、未来の話」

 ん、といいながらもおれは彼の胸の中。頭のてっぺんに口付けの嵐。話せないでしょ〜もうっ! って怒り笑いしながら

「誕生日だけはおれ以外と一緒にいないで、おれがいてもいなくても。
 誕生日だけはおれのものにして? おれの誕生日は景吾にあげるから」
 




 いつの頃からかプレゼントは物ではなく言葉や呼び方に変わって、てっぺんに口付けの嵐の刑とか秘密の合図、周りに教えられないものばかり増えていって、それだけ跡部の中におれの居場所が増えていって嬉しかった。
 馬鹿みたいにおれを好きで、馬鹿みたいに大切にしてたからお付き合いは割りと長く清く正しかったし、全部もらわれてからもいつだっておれの体優先で無理はせず、お昼寝してばっかのおれに愛想をつかさず、暇さえあれば愛情を言葉に形にする、そんな跡部だから心配だった。
 未来でひとりぽっちになってしまい、悲しみに溺れて後ろ向いていたら? そんなことを考えただけで胸が張り裂けそうだった。



「だからね、一緒に居る間は忘れられないような誕生日を過ごして〜居ない時は一つ一つ思い出してほしいの」

 おれも同じように過ごすからさ、って笑いながら顔を上げると跡部は泣いていた。静かに涙を零していた。

 誰かが昔、跡部の事を熱い想いはあるのに冷たい、と言っていた。そうじゃない、跡部はおれより繊細だ。怖くて仕方ないから手を出せなかった、勿論好きだっていうのが大前提だけど。不安で仕方ないから愛を歌い、手を繋いで存在を確かめ、温もりを貪った。
 だから、おれは先の約束をする。どんなことが起きても一年に一回は確実に君のためだけに存在すると。先に貰い受けたのは、あげるだけじゃ不安になるかもしれないから、こんだけおれも好きなんだよって伝えたくて、安心してほしくて。
 まぁ、結果泣かしちゃったんだけどねぇ。


 
 体を起こして、頭ごと抱きかかえててっぺんに口付けの嵐を降らせよう。彼が笑うまで繰り返して、今日の思い出が鮮やかに心に灯るように、幸福の約束として刻まれるように

 おめでとう、跡部。君はおれのもの、おれは君のもの






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