蜂蜜色のときめき

□ハートの数だけ
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 今日は土曜日。両親が町内の集会に、兄も遅くなるらしい。晩御飯を作ってから行くといった母親に
「カレーとかシチューならルーを買えばおれだって出来るもんね! たまにはおれもお手伝いしないといけないよね? 火には気をつけるからまかせてよ!」と言い、手袋をしていても指先が冷たくなるくらい寒いけど、買い物に出かける。ある目的の為に。



 スーパーで買えば楽チンなんだろうけど、母ちゃんは出来るだけ商店街の八百屋さんとかで買うからおれも同じようにしたけど……行く順番を間違えてじゃが芋と玉ねぎ持ったまま、スーパー。超重いC、寒い。
 早く帰りたいなぁってトボトボ歩いてると車のクラクションがなる。振り返ると跡部んちの車だ。ウィンドウが下がり、跡部の顔が見える。すごく、久しぶりに学校以外で会うなぁって思った。冬休み明けから跡部はすごく忙しかったから中々休みにも会えなかった。なんか、一月は年始だから忙しいっていってたな〜って思いながら、跡部の顔をうっとり見てしまった。

「跡部、お出かけしてたの?」
「あぁ、今帰りなんだ。慈郎はどうしたんだ? 買い物か?」
「うん、今日は寒いからシチューなんだよ!
 あ、あのさ〜よっ良かったら跡部、うちで夕飯食べていかない?」

 ドキドキしながら聞いてみる。跡部んちでよくご飯を食べさせてもらうけど、本当に別世界って感じだからご飯を誘う時はドキドキする。跡部はいつもおれんちのご飯はすごく愛情いっぱいで好きだって言ってくれるけどね! だけど今日は母ちゃんじゃなくて、おれが作るんだもん! 美味しいって言ってくれるか美味しく作れるかドキドキして当たり前だよね?
 
「おれが作るんだ! ルーは買ったし、普通に食べれると思うんだけど……ど、どうかな?」
「慈郎が作ってくれるのを食べれるならお呼ばれしなきゃな。乗れよ、慈郎」

 ドアが開いたと思ったら、跡部の手が伸びてきておれを引き寄せ座らせる。手袋を取り上げられて手を擦ってくれる。冷えきってるじゃないかってちょっと怒ったように言ってるけど、心配してくれてるのがわかるからついつい頬が緩んじゃうんだよねぇ。

 あ、もうおれんちに着いちゃったみたい。
 跡部を居間に連れて行くとみっちゃんが跡部の膝に乗る。

「妬くなよ?」
「やきませ〜ん! 跡部はみっちゃんと遊んでて、おれ準備してくるから」



 台所で、野菜室からにんじん、白菜をだして買い物したものをだす。玉ねぎはむいてて涙が出ちゃうので、ゴーグル装着です!
 水を張って、粉末の出汁のもとを入れると美味しくなるんだよって母ちゃんが言ってたなぁとか思い出しながらルーの箱の裏を確認しつつ材料を切っていく。じゃが芋とにんじんは先に茹でないとね〜ってごりごり切っていると、ポンと肩を叩かれた。

「慈郎、その太いにんじんを輪切りは無理だろう?」
「あ、跡部! あれ? みっちゃんは?」
「寝てる。居間にあった毛布かけてきたぞ。で、にんじん半分に切れば?」
「あ、あれみっちゃんのお昼寝毛布なんだ。ありがとう! にんじんはね〜半分に切っちゃうと作れないの」
「何が?」
「ないしょ〜」
「手伝おうか?」
「跡部はお客さんだC、おれが作ったやつ食べたくないの?」
「食べたい。じゃぁ見てる」

 み、見られると緊張するんですけどっ!! しかも見るっていいながら抱きしめてますよ? 跡部さん? 包丁持ってて危ないから駄目って言っても跡部は大丈夫って言って離れてくれない。く、くすぐったいC〜!
 危ないだけじゃなくにんじんの秘密がばれちゃうんだけどなぁって思ってたら、玄関から兄ちゃんの声が聞こえてきた。ただいまって言いながら台所にむかってくるので、跡部が離れる。ほっとして兄ちゃんにお帰り〜っていいながら、跡部をおもてなししてって頼んじゃった。ごめんね、跡部。
 そして、おれはにんじんに取り掛かる。





「慈郎、うまく出来たな! 鮭も入れたのか!」
「うん、今朝母ちゃんが焼いてたから余分に焼いてもらったんだ。跡部、どうかな?」
「すごく、うまい。鮭の入ったクリームシチューは初めてだ。いいな、これ。白菜とも合ってるよ」
「みったんもおいしいよぉ」
「そっかぁ〜良かった〜」

 お肉は灰汁取りが大変だからお魚か肉団子にしなさいって言われたんだよね。何となく白菜も入れるから鮭にしたけど、気に入ってくれて良かったなぁ。

「あ、にんじんさん。ハートだねぇ」
「あ!」

 兄ちゃんが駄目だろうって言ったけど、みっちゃんはスプーンからにんじんを掴んでハートの穴をみていた。くりぬかれたハートもスプーンで探し出して手はべちょべちょだ。兄ちゃんが手を洗いに連れて行くから食べてろって言いながらドタバタと出て行くと居間はちょっとの間静かになった。その静けさがなんだか緊張しちゃって、おれは動けないまま俯いてしまっていると跡部が近づいてきた。

「慈郎、にんじんはいつもハートなのか?」
「えっと、う、うん」
「どっちだ?」
「ハートっ! じゃないよ。
 あ、あのね、今日ご飯作るのおれだから作ったら跡部に食べてほしかったの。偶然帰りに会ったけど、会えなかったら電話するつもりだったんだ」

 跡部、最近忙しかったから、それ、その、跡部に食べてもらうならおれの気持ちわかるようにしたくてさ〜。ハートいっぱいでお腹いっぱいになってほしいなぁとか、後なんか、なんていうか寒いからかな? 暖かくなりたくて。シチューは暖かいけど、食べて心も暖かくなってほしくてさ〜ほら寒いとぎゅーってしてほしいじゃん? あ、でもでも、心も体も暖かくなって美味しかったら、跡部がぎゅーってしてくれるかなぁ……って思ったわけじゃないんだよ? ほんとーだかんね?

 わぁわぁ早口で真っ赤になってわめくおれの頬を優しく包み込んで自分の方にむかせると跡部はちゅってしてきた。何すんの! って言いながら跡部の胸に顔をうずめた。でも、きっと分かってる。おれが嬉しくて頬を緩めきってることも、恥ずかしくて顔が赤くなってることも。だから顔は上げないまま囁くようにおねだりしてみる。

「ハートの数だけもっとぎゅってして?」

 くっつく理由がほしい時、ハートを浮かべておねだりしよう。二人でぎゅってしたら暖かいから





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