蜂蜜色のときめき
□甘い夢
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「来年の新年を一緒にむかえない?」
冬休み前に慈郎に誘われていたが、父親の勤める会社の新年会に家族で出席しなくてはならず、断りを入れてしまっていた跡部は出されたシャンパンを飲み干し、やけくそ気味におかわりをしてしまった。
普段は勿論飲酒はしないが、祝いの席で出されたものは飲んでもいいと父に言われていて初めてではないのに、何故だか二杯目を飲み干した後から瞼が重たくなり、視界がぐらぐらする。
「じい、なんだかふらつく。少し、休みたい」
と言ったような気がしたがそれもあやふやなままぐらりと揺れた。
なんだか体が重く、右半身がうまく動かせない、瞼が重いだけではなく頭も鈍く重いままどうにか横向きになると、目の前にふわふわと揺れるものがある。差し込む朝日を少し浴びてきらきらと輝くそれに無意識に手を伸ばしそっと触れると絹のように気持ちよく手放したくないと感じた。ほんのりと香る匂いも好ましいハーブ系統の匂いだったので、そのまますりより匂いを嗅ごうとした時掛け布団がほんの少しずれて、それが頭部だと気がつく。
「……じ、ろう?」
状況が良く把握できないままだったが、それは確かに、紛れもなく、芥川慈郎本人だった。
「……夢か。慈郎が自分から俺様のベッドに潜り込むわけがない。なら、夢だ。うん」
普段ならそんな事を言わないのだが、アルコールが抜け切っていないのか、はたまた寝ぼけているのか、その両方か、跡部は夢だと思い込み慈郎を起こさないように、起きたら夢から覚めると思ってそっと抱きしめ額に数度キスをし、軽くほおずりすると健やかな寝息をたてて夢の世界へと戻っていった。
慈郎は心底焦っていた。眠気は吹き飛び、顔がどんどん熱くなっていく。と、同時に普段見れない寝ぼけた跡部に胸をきゅんきゅんさせながら、どうしてこうなったのか回想しはじめた。
朝早く目が覚めて、軽くランニングがてら何の気もなしに跡部邸へ来ると、丁度じいやが現れたので跡部が戻って来ているか聞いてみたら、自室で眠っているとのことだった。
じゃぁ、後で来ますと告げると上がって待てばいいと言ってもらえたので、跡部の部屋へおじゃました。
部屋に着くと、いつも自分の寝顔を見られているので今日は跡部の寝顔をみてやろうと、眠っている跡部を起こさないようにそっと近づいた。
最初は心の中できゃあきゃあ騒いでいたのだが、寝息につられて自分も眠たくなってきてしまい、部屋で転寝するのは少し寒いので跡部のベッドに潜り込んだ。キングサイズのベッドの端なので問題ないだろうと思ったのだ。
(なのに、何で? どうして、抱きしめられてるの???)
逃げようと身じろぐと、跡部が少しうなされる。パッと動きを止めると、落ち着いた寝息にかわり、軽く、だけど逃げにくい状態で抱きしめなおされる。
ベッドの端は見えないが、どうやら自分が跡部のほうに転がって行ったらしいと判断した。
(おれ、どんだけ跡部好きなの?)
寝顔もきれいだな〜とぼんやりと跡部を見つめ、心音に耳を傾け、温もりに身を任せると再び慈郎も夢の国へ足を運び始めた。
(あ〜でも〜、頑張って起きてて跡部のびっくりする顔みたいなぁ。普段、おればっかびっくりさせたれてるもんね)
そんな事を思いながら、うとうとし始める慈郎。
そしてその数分後、寝ぼけた跡部にキスとほおずりをされ、顔を真っ赤にし、その状態のまま新年のご対面になるのだが今は何も知らず、甘い夢をみる二人であった。