桜散る

□思いがけない再開
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「椎ちゃん、椎ちゃん!」


「…んぁ…?千鶴…?」


「起きて!朝だよ!」


「あ…本当だ…、ふわあぁぁぁ…」


その時、

部屋の襖が開いた。


「あ。おは一っす」


「…お、おはようございます」


「ああ、おはよう……あれ?」


現れたのは、優しそうなおじさんだった。


彼の視線の先には、本来あたし達の身体に巻き付いてあるはずだった縄。


部屋の隅にまとめておいてある。


「あ。すんませ一ん。オレら縄が嫌だったんではずしちゃいました。主にオレが」


「あ…あぁ、そうかい…」

するとおじさんは言った。

「私は、井上源三郎。みんなからは“源さん”と呼ばれているよ」


「あ。オレは椎です。よろしく源さん」


「わ…私は雪村千鶴です…。よろしくお願いします」

「よろしく」


優しそうに微笑んでいた源さんがふと悲しそうな表情を見せた。


「私も本当はこんなことはしたくないんだが…もう一度、縛らせてもらっていいかい?」


「……すぐ、外せよ?」


「……が、我慢します…」

「ああ…すまないなぁ」


そして、千鶴は手首のみ。

あたしはもう腕を身体に固定するように巻き付けられてた。


頑丈すぎるぜ、あたしの縄←


で、源さんに連れられ廊下に出る。


千鶴は不安なのか、すこしカタカタと震えていた。


あたしは千鶴に近寄って、源さんには聞こえないくらい小さな声で言った。


「千鶴、大丈夫」


「っ!…椎ちゃん…」


「オレが絶対、守るから」

「…ありがとう」


にこりと微笑んだ千鶴。


あたしは元気付けるように笑いかけた。


「着いたよ」


源さんが教えてくれる。


あの時からずっと右の手首に巻いている平助とお揃いの紅い髪結い紐を見つめる。


よし、大丈夫。


少し元気が出た。


源さんの手が襖にかかる。

ごくり、と唾をのむ。

思わず瞳を閉じた。

ドキドキと心臓がざわめく。


あの襖の向こうに待ち受けているものは、生か死か。

ゆっくりと開いて行く襖。

あたしは閉じていた瞳を開いて、しっかりと前を見据えた。


大丈夫、大丈夫。


そう思いながら、源さんの後に続いて一歩踏み出した。
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