桜散る

□また、ね
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はらり、はらり。

風に乗って、桜の花弁が舞う。


大きな桜の木の下、そこにあたしはいた。


まだ7歳くらいのとき、彼に出会った。


「っ…ぐすっ……ひぐっ…」


「…どーしたの?」


「……きみ…だあれ?」


「あたしは椎!椎だよ!あなたは?」


「…おれは、藤堂平助だよ」


あたしは、彼に近付いて自分と同じくらいの頭を撫でる。


「なにがあったのかはわからないけどね、思いっ切り吐き出していいんだよ。でもね、そのかわり…」


「へ…?」


「いつまでも引ずったらだめだよ!」


あたし、このときの言葉、兄さんの受け売りだったんだっけ。


彼は、不安そうにあたしの目をのぞき込んで言ったんだ。


「おれの話、聞いてくれる…?」


って。


だからあたしは頷いたの。


「…おれね、剣の道場にかよってるんだ。だけどね、おれの友達にホントのちちうえのこと話したらね、みんな話してくれなくなっちゃったんだ」


「そうだったんだ…。でも、ちょっと羨ましいなぁ」


「…なんで?」


「自由だから」


「……でも、おれはいらない子なんだよ?」


「それ、あなたのちちうえに言われたの?」


「ううん。でも会いにくるなって…。」


「じゃあほんとのことはあなたのちちうえにしかわかんないよ!」


「……そうなのかなぁ」


「うん!きっとそうだよ!もしもあなたが誰からも必要とさえなくなっても絶対あたしはかわらないから!もうお友達だよ」


「…ありがとう」


そして、あたしと彼は毎日のようにその桜の木の下で遊んだ。


日向ぼっこしてたら一緒に寝ちゃってたり、桜の木にのぼったり。


だけど、あたしは家から出してもらえなくなった。


でも、行きたい。

せめて、お別れだけでも…!


そう思って家を抜け出した。


「っはあ…はあっ…はあっ…!」


あたしは着物なんて気にせず、全力で走った。


「……椎?」


息を切らしてきたあたしを平助は不思議そうに見る。


「平助…、ごめんね。あたし、たぶん、もうここには来れない」


「え…どうして…!?」


「お家に、だめって言われちゃったの」


「でも…!」


「だからね、約束しよう?」


「…やく、そく?」


「うん。あたしが大きくなったら、きっと、きっと会いに行くから。だから、その時まであたしのこと忘れないで…?」


「…わかった。忘れないよ」


そして、あたし達は小指を絡めた。


「「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ、ゆーびきった!」」


そして、あたしは平助に持っていた鮮やかな紅色の髪結い紐を渡した。


「平助、これ持ってて?大人になってもわかるように」


「うん。絶対また会おうな?約束だよ」


「うん、約束!」


それで、家に帰ってあたしはすっごい怒られたんだっけ。


…待っててね、平助。


もうすぐ、もうすぐだから。

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